コラム「南風」 帝王切開


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 前回、自然なお産を通して女性が自分の能力を見直し、自信を持って育児をスタートさせることができるとお伝えしました。では帝王切開などの医療の助けを借りたお産では、育児はうまくいかないのでしょうか? もちろんそんなことはありません。胎内記憶で有名な産婦人科医池川明先生の著書「おなかの中から始める子育て」の中には、結びつきのもっとも深い親子はすべて帝王切開出産だったというデータもあります。たとえどんな形のお産でも、それを自分自身がどう受け止めるかによって、その後の育児、そして人生も変わってきます。

 私たちのクリニックで出産したある女性は、おなかの赤ちゃんの心音が弱って緊急帝王切開になったご自身の体験について次のように語ってくれました。「緊急手術となったときに、煌々(こうこう)と電気がつく手術室で、大勢の人の前で裸になるというちょっとありえない体験をしました。でも、そのすべてさらけ出すという体験がその後の育児にむけての自信になって、夫との関係も変わりました」。彼女は、帝王切開というお産を通して、人が変わったかのように明るくなっていました。そして、わが子や家族と強い絆で結ばれ、楽しく育児をされています。
 ゆいクリニックでは、自然なお産を推進しています。しかし、決して帝王切開を軽視しているわけではありません。帝王切開には麻酔や手術のリスク、術後の痛みなど自然出産とは違う大変さがあります。そして、生まれてくるわが子の無事を願う想(おも)いは、どんなお産でも変わらないはずです。その想いがあれば、どんな方法でも、妊娠や出産は女性が大きく変わるチャンスになり得ると思います。一人でも多くの皆さんが素敵(すてき)なお産を通して、生き生きと輝く新しい自分自身に出会えることを願っています。
(島袋史、ゆいクリニック院長 産婦人科医)