コラム「南風」 あなたの専門は?


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 あちこちに出向くと「あなたの専門分野は何ですか」と聞かれることがある。
 考古学に全く関心がない方はこんな聞き方をしないので、答える際にはちょっと身構えてしまう。なぜならば、専門分野まで尋ねる方はかなり考古学の世界をご存じだからである。

 というのも、考古学研究が始まった頃の話ならば、「専門は考古学」という答えで十分だった。相手によっては、日本考古学や東アジア考古学、ギリシャ考古学など、国や地理的空間を前提とした答えで満足してくださったに違いない。
 しかし、時を経て、研究者の数が増えた現在では、次第に研究分野の細分化が進んだ。だんだん一人でできる研究範囲は狭くならざるをえず、より専門化、特化した研究が多くなった。
 この結果、時代の細分に基づく先史考古学や中世考古学、近世考古学、扱う対象を限った陶磁器考古学、動物考古学、水中考古学などが生まれた。私たちが住む沖縄では、沖縄戦の戦跡を調査・研究する戦跡考古学も提唱されている。
 どんな学問分野にも共通するが、草創期のころにはそれぞれの研究を志す人材が少なく、さまざまな問題についてみんなで話し合い、課題と成果の共有化を図ることができた。
 これに対して、現在は多くの研究者が自らの関心のある限られた分野を徹底的に深化させ、成果を挙げることに精魂を傾けなければならない。言ってみれば、周りの様子に構っていられなくなったのである。
 この状況をみると、何だか現代社会と重なって見える。学問も私たちが暮らす社会も、一人一人の心の余裕がないと、情の通わない世界になる。自分勝手な思い込みで、他人との優劣を競い合うのは、学問にとっても社会にとっても決して良いことではないと思う。
 なので、私の専門分野は「考古学」です。
(池田栄史、琉球大学教授考古学)