コラム「南風」 お父さんなぜ悪い人の味方するの


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 ちょうど20年前の地下鉄サリン事件のころであった。「みどりちゃんのお父さんはなぜ悪い人の味方をするの?」と友達から質問があったと小学生の娘はべそをかいて涙ながらにお父さんなぜと私に訴えた。

 さて、子どもからの素朴な質問にどう説明してよいのか、困った。法律的には刑事事件で犯罪の容疑で逮捕された被疑者はもちろん刑事起訴された被告人でも、有罪の判決が確定するまでは、「無罪推定」が働き、まだ「悪い人」=真犯人ではない。ところが、わが国では一般に逮捕、起訴されたと報道されたら直ちに真犯人=悪い人と、大人でもそう信じ込んでしまう人が多い。われわれ弁護士は、憲法の定める人権擁護と真実の発見、社会正義の実現のため、事件を多角的に分析し、客観視すべく弁護活動を進める。
 子どもたちに分かりやすいようにと、円柱に例え、真上や真下から光を当てると円に見えるが、横から見ると長方形に見えることを例に説明した。犯罪事実や本人の生活態度・反省の態度の情状などにつき、さまざまな観点、角度から犯罪や被疑者・被告人を円柱に例え多方面から光を当てて、裁判所へ訴えて真実(ほんと)のことを明らかにする努力をしている。そのような内容を文書にしたためて、娘に渡し友達に届けさせたことがある。
 「悪い人の味方」といえば、われわれの仲間である坂本弁護士一家がオウム真理教の信者に殺害された事件や地下鉄サリン事件がある。当時、われわれ弁護士の仲間は、仲間の坂本弁護士一家を殺害した罪で訴えられた、オウム真理教の教祖麻原彰晃(松本智津夫)をはじめ共犯の信者の弁護を担当した。オウム事件という円柱に多方面から光を当てて弁護し、裁判所へ真実(ほんと)のことを訴え続け、人権擁護と真実の発見、社会正義の実現のため、日々努力を重ねているのである。
(宮城和博、弁護士)