コラム「南風」 カンヒザクラは春の季語?


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 カンヒザクラの見頃も過ぎて、葉桜が目立つようになりました。この季節になると、「?」と首をかしげることがあります。カンヒザクラの開花に関する放送原稿や新聞記事の「春を告げる」「春の訪れ」という描写に違和感を覚えているのです。立春を過ぎた今は、暦上の「春」として捉えられるのですが、本島北部の桜のつぼみが膨らむころは、まだ冬のさなか。

 『沖縄大百科辞典』によると、カンヒザクラは1月末から2月ごろに咲くもの。『沖縄俳句歳時記』では、緋寒(ひかん)桜は「正月桜」であり1月の季語です。おなじく鬼餅も1月の季語で、激しい寒気を表す「ムーチービーサー」という言葉もあります。
 桜祭りの思い出は、一年で最も厚着をして出掛けるドライブであり、道中で買ったタンカンの皮をむく指もかじかんでいました。「カンヒザクラは春の花か?」といろいろな人に尋ねてみると、やはり多くが首をかしげます。「本土の季節感を刷り込んでしまったのではないか」という意見もありました。確かに冬の晴れた日に、ピンクに染まる道を歩くのは夢心地で、春を迎えた気分。でも本土の桜が咲く季節と、同じような表現でニュースを伝えるのは、あまりにも寂しい。
 舞い散るソメイヨシノや、山々を染める紅葉、一面の白銀の世界。学生時代に過ごした東京郊外の街では、色鮮やかに変化する自然が、季節の移ろいを知らせてくれました。しかしここ沖縄でも、渾身(こんしん)に咲く濃紅の桜だけでなく、空の色や風の音、遠方から渡ってくる鳥が、静かに四季を告げているのだと最近気づきました。
 私は五七五を詠むのが好きで、これまでOTVのホームページで紹介してきました。これからも控えめに語りかけてくれる沖縄の自然に耳をすませ、句を詠みたいと思います。
 新糖の かおりを裂いて トップランナー
(金城わか菜、沖縄テレビ放送アナウンサー)