コラム「南風」 沖縄そば談義


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 仕事柄、そばを食べる時はまず全体を見渡し、麺を取り出して形状を観察します。どこの製麺所だろうかと考えつつスープの匂いを嗅ぎ、だしの材料を推理しながら一口目に進みます。

 「一番美味(おい)しいと思うそば屋さんはどこですか?」。よくこの質問をされるのですが、答えるのは正直困難です。「沖縄そば」とひとくくりにされてはいますが、麺の作りだけでも平麺や細麺に丸麺などさまざまで、名護そば・泡瀬そば・与那原そば・宮古そば・八重山そばなどそれぞれ特徴があります。地域によってだしの種類も異なります。豚がメーンか、鰹(かつお)の風味を重視するか、昆布は入れるのか…。定番具材のソーキや三枚肉、テビチも調理方法や盛りつけ方に店の数だけ独自性があり、これらの組み合わせを考えると、数え切れない程個性豊かなそば屋があるので、一概に「これがベスト」と断言するのが難しいのです。
 そばは沖縄文化の集大成的な県民食であるのはもちろん、海外に住むウチナーンチュや、現地の方々の胃袋も満たしています。ハワイとブラジルに沖縄そばの製麺工場があるのをご存知でしょうか? どちらも移住した県民勢が故郷の味を思い出して興したのです。実際にハワイの工場を見学し、そばが現地のスーパーで販売されているのを見て、うれしく誇らしい気持ちになりました。
 県出身の日系家族が2千世帯も住んでいるブラジル・カンポグランデでは、沖縄そばは「SOBA」として街の文化遺産に指定され、郷土食のような位置づけです。フェイラ(市場)の入り口には沖縄そばのモニュメントもあり、地球の裏側でも庶民に親しまれています。県内どころか、世界中進化を続ける「沖縄そば」。そばを愛する全ての人が、それぞれの“My best SOBA”の味を大切に記憶し、語り継いでほしいと思います。
(佐久間健治、三倉食品代表取締役社長)