コラム「南風」 ベトナムの新世代


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 先日、仕事帰りに1杯5千ドンのビアホイをいつもの場所で飲んでいた。ビアホイとは、樽(たる)詰めの発泡酒に似た飲み物で、道に簡易椅子やテーブルを広げて場所を確保することもあり、非常に安価で大衆的な飲み物である。

 宴(うたげ)もたけなわになってきたころ、友人の1人が「帰らなくては」と言い放った後、足早に席を立った。
 昨日またその友人に会ったので、先日のあれは何だったのかと尋ねたところ、自分が子どもをあやす時間だったからだという。彼の会社での労働時間は1日平均12時間、家庭におけるそれは2時間、家事や育児は奥さんとシェアしていると聞いて面食らった。
 私が初めてハノイの地を踏んだのは、2001年2月のことであった。女たちは棒の両端に籠を掛け、商品を市場まで運んで早朝から働いているのに対し、男たちといえば、朝は屋台のカフェ、夕方はビアホイで博打(ばくち)を打っていた。当時の日本は、フェミニズムやジェンダーが盛んに叫ばれるようになってきたころだったから、その社会を見た時の衝撃は大きかった。
 先日の「NHK World News」で、男性の家事育児労働時間に関する報道があった。北欧諸国が4時間弱、アメリカが約2・5時間なのに対し、日本のそれは、1時間をわずかに上回るという結果であった。私が09年に行ったハノイにおける調査では、女性の回答者でも家事育児は夫婦両方で行っていると答えた方が3割に達していた。
 今日でも、街の片隅で昼間からビアホイをあおっている中年男性を見掛けることもなくはない。しかしながら、「だって、家賃は2人で払っているし、子どもは2人の子だからね」。何のためらいもなくそう言った友人のような世代が増えつつあるのも事実である。
 ベトナムは、今この瞬間も確かに変わりつつある。
(金城れい子、民間企業ベトナム事務所勤務)