コラム「南風」 料理教室の巻


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 自分の一番の欠点は何かと考えるに、それは料理ができなかったことである。
 独身生活も長かったのだが、ご飯も炊かなかったし、玉子焼きもみそ汁も作れなかった。それでどうやって生きてきたのか不思議である。日に3度の食事であるが故に、印象に残らず、首をひねるばかりだ。

 東京やロスやニューヨークでの一人暮らしである。外食やインスタント食品を食べる以外に暮らしようがなかったはずだ。沈思黙考、やっとひねり出せば、TVディナーというアルミ入りの弁当があったな。
 人生とは何か、どうすれば自分を高めることができるかと真剣に考えていた割には、目先の、自分の腹を満たすこともできない自分に気がつかなかったのは迂闊(うかつ)であった。自分の人生は他人にひたすら食わしてもらう人生だったのである。なんという情けないことだ。
 そんなわけで、2年前に、一念発起して料理教室に通った。そこはベテランの主婦でいっぱいだった。料理は結構、時間との勝負で、段取りとスムーズな立ち回りが大切なのである。
 親子丼と肉団子の揚げ物に挑戦。5、6人の小グループに分かれて、皆さん、さっさと動くが、こちらはキッチン用具の使い方どころか、トングやらヘラやらおたまやら、聞きなれない名前に呆然(ぼうぜん)としてしまう。
「ちょっと、そこのボールとバットを取ってちょうだい」と、言われても、えーっと、それらしきものはないなあ。この引き出しを開けたりあの戸棚を開けたり、まごつくばかりである。
 揚げ物も「ほら、そんなにつつかない。温度も低いでしょ。入れたお箸がチュルチュルーするのが目安よ」と叱られる。リーダー格の奥さんのアシスタント役も果たせず、ついに皿洗いに落ち着いた。
 深夜作った会心の親子丼も翌朝、チンしたら鶏入り玉子焼き丼になった。
(南城秀夫、通訳・作家)