コラム「南風」 ベトナムの北と南


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 ここ数週間、ハノイでは雨の日が続いている。毎年この時期になると、連日霧雨が降り、洗濯物は乾かず、油断すると竹細工の家具にはカビが生える。ベトナムというと南国をイメージする方が多いらしく、寒くて驚いたという話をよく聞く。ハノイには日本と同様に四季がある。冬の気温は沖縄と同じくらいだが、湿度が高いので体感はこちらの方がずっと寒い。

 一方、ホーチミン市はまさに日本人がイメージする南国そのもので、年中半袖で過ごせ、洗濯物など2、3時間もあれば乾いてしまう。ハノイとホーチミン市は、南北で実に1650キロも離れており、それは沖縄の南北端の約10倍である。
 ベトナムにおいて、北のハノイは政治の中心、南のホーチミンは経済の中心、というのは周知の事実である。しかし、この両都市には、気候や都市機能だけではなく、さまざまな違いがある。言語、食、人々の気質、顔つきに至るまで、日本もまたそうであるように、ここベトナムでも、地域、民族ごとの文化がある。
 2013年から2014年にかけて、ホーチミン市に約1年半住んでいた。南の人は明るく、屈託がなく、率直な人が多かった。ハノイに長く住んでいる私のベトナム語は北弁で、本来はそれが標準語なのだが、よくからかわれたものだ。ハノイの人は、われわれは首都の人間で、ベトナムを統一したという誇りに満ちている。だが、自分たちの方が経済が発展しているという自負がある南の人にとっては、それが鼻持ちならないらしく、ハノイを毛嫌いする人は少なくない。
 私にとっては、どちらも住めば都で、どこの人も仲良くなれば皆同じである。しかしながら、戦争がかつてこの国を二分したという暗い歴史の残骸は、いまだに社会のいたる所に散見される。沖縄も、ここから学ぶことがありはしないか。
(金城れい子、民間企業ベトナム事務所勤務)