コラム「南風」 ヒトとしての自覚


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 人類の生物学的な分類は霊長目―真猿亜目―狭鼻猿下目―ヒト上科―ヒト科に属する。ヒト科の中では猿人→原人→旧人→新人の順に出現し、それぞれの段階で道具や技術を変化させながら、現在にたどり着いた。ヒトをはじめ、すべて動植物は単体では生存できない。このため、何らかの形で集団を作り、生き延びてきた。しかし、他との競合関係に破れ、絶滅してしまった動植物も多い。

 その中にあって、人類は他の多くの動植物だけではなく、同じヒト科の仲間を絶滅に追いやりながら、自らの優位性を確立してきた。「絶滅危惧種」に指定された動植物の存在は、人類が地球上の他の生物を犠牲にしてきた証明でもある。
 世の中にはいろいろな考え方があるので、このような動植物の絶滅は生存競争に破れた結果であり、仕方ないことと割り切って考える方法もある。
 しかし、この考え方は生存競争の存在を正当化する考え方に繋(つな)がる。これを突き詰めて行けば、現実社会の中の人間同士の生存競争をも容認し、優者が劣者を淘汰(とうた)することを是認しかねない危険性が潜む。
 最初に戻るが、ヒトをはじめ、すべての動植物は単体では生きられない。そこで集団を形成するとともに、他の動植物との共存・共生を図りながら生きてきたのである。
 であれば、他の動植物を圧倒する能力を身に付けた人類は、他の動植物の生存のために協力、時には譲歩することが必要であろうと思う。それは人種や民族、性別、人それぞれが持つ個性など、人間同士の中に存在する相違に根ざした敵対や優劣の意識を捨て去り、お互いの存在を尊重する認識にも繋がる。
 自らのさまざまな能力を高める努力を怠らないとともに、地球に生まれたことと他者への尊敬を忘れないヒトでありたいと思う。
(池田栄史、琉球大学教授考古学)