コラム「南風」 ベトナム式あいさつ


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 初対面の人と会話を始める際、日本人であれば大抵は挨拶(あいさつ)から入るであろう。ベトナム語には「Xin ch〓o(シンチャオ)」という言葉がある。日本語の「はじめまして」や「こんにちは」にあたるのだが、正確には朝昼晩いつでも使え、かなり丁寧な他人行儀の挨拶であるらしい。

 そのためか、ベトナム人からこう挨拶されることは稀(まれ)である。彼らは挨拶代わりに、まず相手の年齢を尋ねてくる。その訳は、相手の年齢によって、日本語の「私」「あなた」といった人称代名詞が異なるからである。その呼び方は、相手との親密度でも異なり、かなり複雑になるのでここでは説明を避けるが、その数は10以上にもなる。これに慣れ、使い分けられるようになるまで、2年近くを要した。
 相手の年齢が分かると、決まって結婚しているか否かといった、日本人にしてみればかなりプライベートな質問をしてくる。最初のうちは戸惑いつつも正直に答えていたが、さすがに「していない」というと問題視される年齢になってきたので、最近は「してるよ」と答え、「子供はいるのか」という次の質問に対しては、「2人いる」ことにしている。
 ベトナムでは、近年まで二人っ子政策が行われており、公務員などはいまだに3人以上の子供がいると、降格や減給という待遇を受けるらしい。平均結婚年齢が、男性30・9歳、女性29・3歳(平成25年厚生労働省「人口動態統計の確定数」)という日本のような社会は、彼らにとっては考えられず、その年になっても結婚していない人には、蔑称があるくらいである。
 おかしなもので、最初からこのような質問をされるから、親しくなるのは早い。彼らは、初対面の人であっても、まるで友人のように声をかける。そんな光景が見られなくなった日本に、ある種の切なさを覚えるのは私だけであろうか。
(金城れい子、民間企業ベトナム事務所勤務)

※注:〓は「a」にグレイブ・アクセント