コラム「南風」 心を支えた民謡


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 子どものころ、祖父母が歌っていた民謡が今も心の中に生きている。
 例えば、「汗水節(あしみじぶし)」「てぃんさぐぬ花」など、それは昔も今も変わりなく私の心の支えとして勇気と希望を与えている。

 1960年代のことである。私はフィリピンで開催された環太平洋国際青年会議へ参加する機会を与えられた。マニラを経由して南部のネグロス島へ着いた。ネグロス島在のシリマン大学で約1カ月間の研修交流であった。
 その間に地域住民との交流も予定されていた。幸いにして国際結婚してネグロス島で生活している、沖縄本島北部出身の女性と話し合う機会が与えられた。彼女は男の子3人に恵まれるも夫にベトナム戦で先立たれた。彼女は話し出した。
 「言葉や生活習慣も違う国で、子ども3人育てることは大変であった。初めは泣いてばっかりいた。だが戦後沖縄の生活を思い出しおじー、おばーたちの働いている姿に勇気を与えられ、頑張るようにした」
 「子どものころ青年会で歌っていた『汗水節』を一人で歌いながら日々の生活をしてきた。“汗しみじゆ流ち 働らちゅる人ぬ 心うりしさや 他人(ゆす)ぬ知ゆみ”と村芝居でもよく歌われていたよ。だから苦労を苦労とも思わないし、子どもたちも元気で学校へ行っているさ…」
 地元フィリピンの人々の話によると、彼女の明るい積極的な生き方が地元フィリピンの人々の意識を変えたという。彼女は一人で店も経営し、地域の生活指導員も務めていると話してくれた。
 伝統的民謡は沖縄人(うちなーんちゅ)の偉大な精神文化であり基調な財産である。「汗水節」は沖縄が誇る伝統的勤労精神文化であり、学校教育の中で子どもたちに率先して教えられることを期待したい。
(座間味宗治、沖縄語普及協議会副会長・臨床心理士)