コラム「南風」 異文化と向き合う


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 大学の調査や研究に携わっていると、国内・海外を問わず、しばしば旅に出かけることとなる。

 出先では目的とする遺跡や博物館などを訪ねるとともに、さまざまな研究者と意見交換や討議を交わす。そして、時間が許す限り旅先を歩き回り、人々の暮らしや土地柄について見聞を広めることにしている。
 旅先で目にする人々の暮らしぶりや街並は多種多様で、「人生いたるところに青山あり」という言葉が実感される。また、この感慨が旅の本来の目的であった研究に深まりや彩りを与えてくれるのである。
 このような旅先での見聞について、私の師匠は「良い印象を持たなかったことはすべて忘れ、良い思い出や経験のみを覚えて帰りなさい」と諭してくれた。
 おそらく師匠もこれを実行していたと思うが、今にして思えば、有り難い指導であった。
 所変われば品変わるで、世界各地の人々の暮らしぶりは本当に千差万別である。日常生活で培われた自分の常識は、地域や国を違えれば非常識となることも多い。各地の暮らしぶりの違いは文化の違いであり、これを認め、尊重することから、相互理解と信頼関係の構築が始まる。
 そうして見ると、沖縄には多くの観光客が訪れている。我々にしてみれば、耳慣れない言葉を話し、いささか不思議な行動を取る人々に見えても、本人にしてみればきっと日常の延長に違いないのだ。観光客の皆さんは異文化の持ち主たちであり、わざわざ私たちとの接触機会を相手側からつくって下さっているとも言える。ならば、ここはじっくりと観察し、時には会釈を交わしたりすることがお互いの良き異文化交流体験に展開するだろう。
 身につけた自分の文化を絶対化するのではなく、相対的なものと位置付け、異文化に向かいたいと思う。
(池田栄史、琉球大学教授考古学)