コラム「南風」 弱者の立場から


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 この欄の執筆を引き受けるに当たって、私が一番伝えたかったのは、アブチラガマが全国から「平和学習」の場として注目されている大切な場所であること。そして伝える側のガイドの地道な活動についてです。

 「専属ガイドゆうなの会」は、旧玉城村発刊の糸数アブチラガマの本や玉城村戦時記録を教本にして、案内マニュアルを作成しました。約3カ月間の講習と実践、さらに毎月の学習計画を立てての現地研修のほか、手作りの紙芝居を持参して幼稚園や小中学校へもボランティアで伝え続けてきました。
 紙芝居は保育園や小中学校、また特別支援学校の子どもたちの入壕前説明にも用いています。ガイドは自ら手話も習い始めるなど、多くの人たちが体験できるように工夫をこらしています。
 私たちガイドの理念は思想信条、特定の政党の支持をしないことです。その理念の下、地元の証言を伝えることを目的にガイドは養成されています。何よりも女性や、親という「弱者の立場」から伝えるというのが私たちのスタンスです。
 沖縄戦では子供、女性、年寄り、障害者が犠牲になり、特に女性は身を守る術がありませんでした。当時、日本軍は糸数の民家を宿舎などに使っており、若い女性は常におびえていました。やがて日本軍は首里司令部を守るため移動しますが、その前日、ある兵隊が17歳の娘に短刀を突きつけて連れて行こうとしました。これこそ戦場で弱者を支配しようとする人間のエゴの表れです。そして、その時の恐ろしさを語ってくれた地元の女性の証言こそ、伝えていかなくてはならないものです。
 子供たちの間で起こっているいじめ、自殺、死に至るまで殴り続ける―という事件が後を絶ちません。弱者の排除、いじめが社会問題となっている今こそ、命の大切さを弱者の立場から考える「平和学習」が大切ではないでしょうか。
(當山菊子、南部観光総合案内センター嘱託職員)