コラム「南風」 言葉のTPO


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 「いってらっしゃいませ」。営業へ向かう先輩に、声をかける私。すると先輩は苦笑い。側で聞いていた上司からは「そんな丁寧に言わなくてもいい!」と注意されました。東京のレコード会社で働いていた時のことです。

 学生時代、ホテルでアルバイトをしていた頃は、お客様を見送る時「いってらっしゃいませ」と声をかけるのは当然でしたので、なぜ注意されたのか納得できませんでした。いま振り返れば、社会に出たばかりの私は、先輩に敬意を表そうと気張り過ぎていたのでしょう。
 それからしばらく経(た)って…。沖縄テレビで働くようになり、後輩を迎え入れた時。ある新入社員の「かしこまりました」の返事に、窮しました。しかし誤用でもないので戸惑っていると、「間違ってはいないけど、ふさわしくないよ」と先輩アナウンサーからの助言がありました。
 抱いていた疑問がすっきりと晴れていく感覚でした。TPOとは、時間・場所・場合に応じて、方法や態度、服装を使い分けること。言葉にもTPOが必要で、ぞんざいであってはいけないし、また丁寧過ぎても、相手を思いやることにはなりません。
 広いホテルのロビーならば、「いってらっしゃいませ」という言葉が心地よく響きます。しかし営業に向かう同僚には「いってらっしゃい!」と元気よく送り出す方が、良いコミュニケーションを生むのでしょう。
 もうすぐ那覇ハーリー。OTVアナウンサーも会場でさまざまな立場の方と出会います。中学生レースの出場チームには「どんな練習をしてきましたか?」、御願(うがん)バーリーに臨む方には「どのようなお気持ちで、今日を迎えたのでしょうか?」。同じお祭りのインタビューでも、それぞれの「ふさわしい」に対応してこそ、相手の「その人らしさ」を引き出すことができるのです。
(金城わか菜、沖縄テレビ放送アナウンサー)