コラム「南風」 バトンタッチ


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 4月は学校や職場でさまざまなバトンタッチがあった。沖縄戦当時、女学生だったひめゆり学徒も次世代に繋(つな)ぐ後輩を育て、講話を退いた。糸数アブチラガマの生存者の一人、元日本兵の日比野勝廣さんの娘・4姉妹も、父親の体験を引き継ぐ決心をした。

日比野さんは生前、110回以上も沖縄に家族と慰霊で訪れていた。「兵士らが一瞬で肉片になる怖さ、人と人とが殺し合うことが戦争だ」と語った父親の偲ぶ思いを姉妹がバトンタッチした。
 日比野さんの三女は、小学校教員を退職する約1年前から、児童の祖父母らと一緒に命の大切さを子供たちに伝え、皆で糸数アブチラガマを訪ねることを約束し退職した。そして今年3月末、祖父母らの希望で訪問が実現した。小4になった児童たちは恩師や家族との旅行に無邪気な笑顔を見せていたが、戦争を伝える紙芝居が始まると真剣な目で見詰めていた。
 「70年前、先生のお父さんが助かったこの場所で、子供たちに何かを学んでほしい」と大人たちは期待した。子供たちは暗闇を知らなければ、今ある自然も空気も、家族も当たり前にあると思っている。ガイドは避難していた当時の住民の様子を想像させ、手を繋ぐことで命のぬくもりを感じ取ってもらうことを試みた。子供たちは「命がないと好きなことはできない。あんな暗い所で寝るのは嫌だ」と話した。大人たちは親子で貴重な体験ができたことに感動し、先生との出会いに感謝した。ガマから外に出ると、明るい光と鮮やかな緑、爽やかな風があった。誰かに追われる恐怖もない。餓死もない。
 当たり前がどれほど幸せなことか。この幸せが、戦争になると一気に崩れてしまう。当たり前の平和な日々を守らねばならない。そのために考え、行動することが必要だと、皆で決意を新たにしたという。
(當山菊子、南部観光総合案内センター嘱託職員)