コラム「南風」 至福の読書?


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 考古学を学ぶ私は、調査や会議のために国内外へ出かける機会が多い。沖縄は島嶼(とうしょ)地域のため、国内はおろか県内でも航空機を利用することが一般的である。また、国内の場合には航空機から電車や高速バスなどを乗り継いで移動することも多い。

 これらの公共交通機関は私の都合に合わせて動いてくれる訳ではないので、時刻表を見ながら、目的地での予定に合わせてスケジュールを組み、航空機や電車の予約をすることとなる。人によっては、このスケジュール組みと予約が全く苦手で、ほとんど旅行社任せにする仲間もいる。
 しかし、私はこれが大好きで、旅先の宿を含めて、全部自分で手配する。私にしてみれば、このスケジュール組みの段階から、すでに旅は始まっているのだ。交通機関それぞれの所要時間や乗り継ぎ時間など、調べている間にも、次第に気分が高揚してくる。
 そして、何よりも大事なことは、移動中に読む本の準備である。意外に思われるかもしれないが、大学にいるといつも時間に追われ、ゆっくり本を読むことができない。この点、飛行機や電車の中、乗り継ぎの待合室は読書に打ってつけの場所となる。
 以前から気になっていた論文や資料のこともあるが、もっぱら中心を占めるのは、気楽に読めて持ち運びが楽な文庫本である。
 予(あらかじ)め移動時間の長さに合わせた冊数を準備し、読み耽(ふけ)る。疲れたら一寝入り。目覚めたら、また読書。至福の時間が過ぎて行く。旅(トラベル)にはトラブルもつきものだが、飛行機や電車の遅延・欠航も、神様がくれた休息に思える。ただし、年度末には時間に追われ、致し方なく指導学生の書いた論文を持ち込む場合がある。これを読むのは全くもって苦行である。
 悪いのは指導教員だけど。
(池田栄史、琉球大学教授 考古学)