コラム「南風」 基地内大学院の巻


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 「僕は除隊して国に帰ったらね、州政府に勤めたいんだ。うーん、できれば博士号をとり、ドクターと呼ばれて、皆に尊敬されるんだ」

 巨体に拘(かか)わらず、はにかみ屋の将校が爪を噛(か)み噛み、そう言った。何とうらやましいことか、と私は思った。
 「だって幾つになるんだい。州の公務員になるには年齢制限があるんだろ」「はて、そんなもの、聞いたこともない。判断されるのは知識と健康だよ」
 30代後半に通った基地内大学院での会話だ。日本では、生涯教育と声高だが、教養が増すだけで転職する武器になりづらい。学校に戻って己を磨こうにも、インセンティブがないのだ。
 嘉手納基地第5ゲートから入ってすぐの嘉手納高校に夜間、間借りした基地内大学には向学心に燃えた兵士が喜々として通う。高卒の兵士はメリーランド大学で一般教養を深めに、大卒の将校はオクラホマなどの大学院で専門知識を求めにやってくる。長髪にずれ落ちそうなGパン姿の高校生と入れ替わりに、激しい訓練の後、カーキー服や迷彩服のまま、脇に分厚い本を抱えて来る者や、居間で一服して、シャワーを浴び、明るい私服に着替えて来る者がいる。
 行政学の先生は陽気だ。「僕のワイフは、あんたなんかドクター(博士)じゃないと言うんだよ。メディカル・ドクター(医者)だけがリアル・ドクターだとさ。さて、皆さん、自己紹介をしてもらいましょうかね。そちらからどうぞ」。すると、「私の名前はジョーンズ。アイアム・ア・リアルドクター」と白髪の紳士が答える。公務に就く医者の面目躍如たる学究ぶりだ。
 講義は月曜から金曜まで。2冊の本を読んで臨む。土曜に試験で皆、必死。米国の柔軟性と強さが現れている。いまさら公務員や教授になれる訳ではなし、夢がないのは私ぐらいだった。
(南城秀夫、通訳・作家)