コラム「南風」 円と縁


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 日焼けした腕を眺めながら、夏がきたことを実感する今日このごろ。生徒のころは夏休みがくることが待ち遠しくて、1学期がスローモーションに思えるほどでした。そんな高校生の夏休みに学校から出された課題は「職場体験」。自分の興味がある職業を探し、1日仕事を体験させてもらうというもの。歌手を志していた私は、芸能関係の職場を見学させてもらいたいと考えていました。

 たまたま父の知人の友人に映画監督をされている方がいるとわかり、スタジオにお邪魔させていただくことに。その日の仕事は短編映画の台本作り。と言っても私は、台本をホチキスでとめるだけでしたが。
 「マサーおじいの傘」とタイトルが書かれた台本を1枚1枚重ねていく度、ここから新たな作品が生まれていくのかと、私まで心躍るようでした。
 「私も自分の音楽を世に出していきたいです」。そんな話を監督としながら、あっという間に終わった職場体験。それから1年半後、学校の先生の薦めで応募したコンテストでグランプリを頂いたことをきっかけに、ある音楽プロデューサーの方から「映画のテーマソングを作ってみないか」というお話を頂きました。そう、その映画こそ「マサーおじいの傘」だったのです。
 その方は、私が職場体験で台本作りの手伝いをしたことなど知るはずもなく、奇跡のような偶然にみんなで目を丸くしたのを覚えています。そこから生まれた曲が「君の傘」。「だから悲しい雨が降らぬよう君の傘になりたい」というフレーズは、この映画に出合えたからこそ生まれたのです。
 全く違うところに打った点が線になり、気が付けば円になっていた…。それもこれも縁が繋(つな)いでくれたもの。
 円と縁。点を打つことを諦めずに歩いていこう。
(しおり、シンガー・ソングライター)