コラム「南風」 見えざる資産


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 「企業経営について重要なことは何か」
 経営者になって3年目の頃、同年代の経営者にこう質問をしました。ようやく事業が軌道に乗り、新工場に移転。社員も増えて設備投資し、さらなる発展を模索していたときです。

当時の私は、企業経営とは「製造した商品」を通じて世の中の役に立つことだと信じていましたが、予想に反して彼の返答は「仕事とは、すなわち人である」でした。
 「会社に携わる人々が、どのような考え方で商品を世に出すのかによって、仕事の結果は大きく変わってくる。商品部、営業部、物流部が何を思い、何を目指しているか」「会社の資産は、例えば土地、建物、商品、機械などの物理的な価値があるものに目を奪われがちだが、それよりも『お客さまは喜んでご利用いただいているのか』『取引先の評判はどうなのか』『社内からの不平・不満はないか』『地域での存在価値はどれくらいあるのか』などの、目には見えない部分の方が遥かに大切」と教えていただきました。つまり、お客さまからの信頼、従業員の仕事への熱い思いなどが、企業にとって「目には見えない資産」ということです。
 それはグラフなどには表れませんが、商売上大切な要素であり、蓄積するのにも時間がかかります。何より、お金を出しても買えない類いのものです。弊社のような中小企業が生き残っていくには、こうした「目には見えない資産」の蓄積こそ肝要である、と勉強になりました。
 それからは、新鮮かつ安全な食材を早く届けるために工場の衛生管理に力を入れる、深夜製造・早朝出荷体制に備える、少量生産体制にも対応する、など目に見えない部分に創意工夫を重ねてきました。これらは数字には表れませんが、「見えざる資産」として積み重ねていくことが企業にとって重要だと確信しています。
(佐久間健治、三倉食品代表取締役社長)