コラム「南風」 旅の必携品 その2


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 前回、旅の楽しみとして読書をあげた。私には本の他に、旅を前にして準備するもう一つの必携品がある。それは地図である。
 天気のよい日、飛行機に乗ると、外の様子が良く見える。機内誌の最終頁(ページ)にはだいたい飛行経路地図が載っているので、どの辺りを飛んでいるのか確認でき、地図の必要はない。

 しかし、電車やバス、場合によってはチャーターした車での移動の際には、地理的な情報がない限り、移動している位置がどこなのか、全く見当がつかない。そのために準備しておくのが地図なのである。
 地図を見ていると、車窓から見える山や川の形状、時折見かける看板の文字などから、どこにいるのか知ることができる。これを続けていると、海岸から内陸へ、平地から山岳地帯へ、あるいは草原から砂漠もしくは岩山(いわやま)へなど、車窓の風景の変化を地図上で確認することもできるようになる。
 地図に示された等高線密度の違いや彩色の違いなどの情報と、目の前の実際の変化となって現れる風景を引き比べる。これは目的地まで到達する間に、かつての人々の旅のありさまを追体験する試みでもある。
 過去の人々が何の目的を持ってこの辺りを通ったのか、どのような感慨を抱いたのか、考えるだけでも楽しい。結局のところ、現実の旅だけではなく、過去の時間も同時に旅しているのである。
 そんな旅の経験の中で、もっとも地図の有り難さを感じたのはモンゴル調査である。モンゴル皇帝は遊牧をしながら一年を通じて巡回しており、王宮は皇帝とともに移動する。このため、王宮跡の多くは草原の中に残されているのだが、草原には道路がないのである。そこで、地図とGPSを頼りに探し回り、やっと王宮遺跡へたどり着いた時の喜びは今も忘れられない。本当に大変だったんだから!
(池田栄史、琉球大学教授 考古学)