コラム「南風」 『おばぁの唄』


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 「何のために歌うのか」 東日本大震災を機に、自分自身に問いかけました。その答えを探す旅に出かけた私が向かった場所は、名護市にある国立療養所「沖縄愛楽園」。1週間ほど施設のお手伝いをさせていただく中で、愛楽園で暮らす人生の大先輩方が話してくれた言葉一つ一つは、私の胸に痛いほど突き刺さってきました。

 ある日方言がよく聞き取れず申し訳なく思っていた私に、こんな話をしてくれた方がいました。
 「今の若い子たちは方言を話せない子もたくさんいるよね。でもそれは生きてきた時代が違うから。方言がわからない時代に生まれたってことは、戦争も体験してないということだわけ。それって幸せなことだと思うさぁ」。優しい口調の背景にあるのは悲しい戦争の記憶。戦後70年が経(た)つ今、戦争を知らない私たち世代は何を感じ何を伝えていけるでしょうか。
 自分にとっての音楽の在り方を模索していた私に、答えを導き出してくれたのは安里さんという100歳近いおばあさん。ある日のお茶会で、私の隣に座った安里さんはゆっくり、こう話し出しました。
 「こうやってみんなと過ごすこの時間が本当に幸せ。だからこの気持ちを歌にして伝えたい」
 そう言ってみんなの前に立ち、アカペラで民謡を歌ってくれました。かすれ声でしたがその歌には私が探していた答えがあり、喜び、悲しみ、その感情の先にあるのが歌なのだと、少しわかったような気がしました。そんな愛楽園で過ごした日々から生まれた曲が『おばぁの唄』。「いつものように今日が始まる/だけど大切な今日だから/おばぁの唄が教えてくれた/悲しみ 優しさ添えて」
 もうすぐやってくる慰霊の日。当たり前に笑える日々に感謝しながら歌い続けていこうと思います。
(しおり、シンガー・ソングライター)