コラム「南風」 変わりゆくベトナム~結婚を例に


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 大学院在学時、私はベトナムの家族、殊に結婚や出生について研究していた。東南アジアにおけるその手の研究は限られており、ベトナムと名のつく本は片っ端から読みあさっていた。

 ベトナムでは、「結婚とは、個人ではなく家同士の婚姻であり、両親や親戚からあてがわれた家柄のつりあった相手と結婚させられる」とも、「結婚式の翌朝に花婿側の母親が初夜の首尾を確かめに行き、もしおしるしがなかった場合、婚資として送られた豚の片耳をちょん切り送り返す」とも読んでいたので、明治憲法が施行され、封建的になった頃の日本のような社会なのだと想像していた。文献研究者にありがちなその勝手な幻想は、ベトナムに降り立った数日後にもろくも崩れ去った。
 喫茶店では男女のグループがおしゃべりを楽しんでしているし、夜になると、湖畔には1メートルおきにカップルがバイクを止めて夕涼みをしている。若者たちは、大いに自由恋愛を謳歌(おうか)していたからである。
 2009年、実際に現地調査を行い、「誘いに来た男性は女性の両親に挨拶(あいさつ)をし、必ず約束した時間までには自宅に送り届けなければならない」とか、「女性は20代半ばまでに結婚するのがよしとされる」など、新たに分かった事実も少なからずあった。また、調査では分かり得なかったことで、最近やっと分かってきたこともある。結婚式の翌日から職場の女性がマタニティーを着て来たり、結婚は来年あたり、と言っていた女性が急に結婚したり、婚前交渉が珍しくなくなってきたのである。
 書籍から学んだことは多く、先人のその功績は讃(たた)えるべきものである。しかしながら、「今」、「何」が、「どう」変わりつつあるのかという現実は、ここに来なければ分からなかった。
 私の研究報告は、まだまだ先のことになりそうだ。
(金城れい子、民間企業ベトナム事務所勤務)