コラム「南風」 ありがとうを忘れずに


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 全国デビューを控えた8年前のある日、1通の電報が届きました。そこに書かれていたのは「ありがとうを忘れずに」というメッセージ。デビュー後、次第に拠点を東京へ移し、人混み、コミュニケーション、慣れない都会での生活に、いつしか「すみません」が口癖に。道端に落ちていた傘につまずいて、思わず傘に向かって「すみません」と言ってしまったほど。

本来ならばお礼を伝える場でも謝ってばかりで、気づけば大事にしてきたはずの「ありがとう」の言葉が私の中から消えかかっていました。
 そんな時目にしたのはこんなコラム。「すみませんを多用する日本人。例えばエレベーターから降りる時、誰かがドアを開けていてくれたとしたら、貴方は何と声をかけますか」。コラムは「すみませんをありがとうに変えてみませんか」で締めくくられていました。
 たった5文字の言葉を変えるだけで、相手の反応は大きく変わります。それだけでなく、ありがとうを言える自分の心に余裕すら生まれてくるほどです。相手を思う気持ちがあるからこそ伝えられる「ありがとう」。
 電報をいただいてから、めまぐるしく時が過ぎました。憧れていたものがいつしか当たり前なものに変わってしまう時こそ、「ありがとうを忘れずに」の言葉を大切にしなさいというメッセージが込められていたのだなと思います。たくさんの方の力を借りて歩んできた8年。今だからこそ、ありがとうの5文字の言葉を大切にしていこうと身を引き締める思いです。
 さて、今年の1月から半年間担当させていただいた「南風」も今日が最後となりました。またいつか皆さんとお会いできるよう、これからも言葉を大切に紡いでいきたいと思います。最後はやはりこの言葉で。「ありがとう」。
(しおり、シンガー・ソングライター)