コラム「南風」 永遠の少年


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 「法務教官とは、どのようなご職業ですか」と尋ねられることがある。僕自身よく分からないというのが本音だが、そう答えるのは間抜けなので「教師と心理カウンセラーと警察官を足して3で割ったような職業です」とお伝えすることにしている。

 このように説明すると「真面目な人間」と決めつけられるが、そもそも少年時代の僕は、真面目どころか少年院にぶち込まれてもおかしくない、荒れた生活を送っていた。先生に反発し、学校を拒絶し、髪を染めてボクシングジムに入り浸る、3年間の成績オール1の不良少年。それが、中学生時代の僕の姿だ。
 「先生は、どうして先生になろうと思ったんですか」
 少年院での、とあるカウンセリングの合間、生徒から質問され、真剣に考え込む僕がいた。
 「僕は学校の先生が大嫌いだったから、自分がそばにいてほしかった先生になりたいのかもしれないね」
 昨年、沖縄県内の某中学校から講演会のお声掛けをいただいた。対象は、生徒ではなく、同中学校の先生方。中学校にも行っていなかった僕が、中学校の教室で、中学校の先生を相手に講演会を行う。人生というものは、本当に不思議だ。
 昔と全く変わらない学校の居心地の悪さに息がつまり、ふと教室の後方に目線を移したそのとき…
 僕は見た。最後列の席から教壇上の僕を見つめる、中学生時代の僕の姿を。とても生意気そうで、それでいてどこか寂しそうな少年。
 「君がそばにいてほしかった先生に、僕はなることができたかな」
 僕の問い掛けに、少年は答えてくれない。
 そのかわり、「自分も、先生みたいな先生になりたいな」と微笑んでくれる少年院の生徒が、今、僕の目の前にいる。
(武藤杜夫、法務省沖縄少年院法務教官)