コラム「南風」 楕円球に導かれ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「ラグビーは少年をいち早く大人にし、大人にいつまでも少年の魂を抱かせる」。これは元ラグビー・フランス代表主将、ジャン・ピエール・リーブの言葉だ。三十数年前、幸運にもそんな素敵(すてき)な言葉で形容されるスポーツに出合えた。

 フットボールから発展したラグビーは、時代と共にルールが整備され、19世紀後半のイギリスのパブリックスクールでは、人材育成の一環として競技されるようになった。激しさの中にも知性や理性が求められるラグビーは、組織の中で自律した人間を育てるのに最適だと考えられていた。
 さて、そんなことなど知る由もなかった中学生のころの私は、劣等感をもち、いろいろな悩みも抱えていた。勉強や部活動にも一生懸命だったが、将来への漠然とした不安や焦りは消えなかった。自分を変えたい一心で新しい環境を求め、高校進学と同時に出合ったのがラグビーだった。
 そこでは、尊敬する師と仲間たちにも恵まれ、人生が「劇的」に変わった。それらの出会いは、森信三氏の「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早過ぎず一瞬遅すぎない時に。しかし、内に求める心なくば、眼前にその人ありといえども縁は生じず」との言葉通り、全てが必然だったと思う。こうして、楕円(だえん)形のように不安定だった人生は楕円球によって導かれた。以来、ラグビーに育ててもらい、そして生かされている。
 歴史が認めたラグビーの「教育力」は、自身の経験を経て、指導する立場になった時、より強く感じた。それは多くのスポーツにもある力だと思うが、ラグビーはその成立過程や競技の特性ゆえ顕著なのだろう。
 今回、縁あってコラムを執筆することになった。ラグビーの認知度の向上に少しでも繋(つな)がれば本望である。ノーサイドまでお付き合い下さい。
(安村光滋、県ラグビーフットボール協会理事長)