コラム「南風」 無口な歴史学者


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 手元に手のひらサイズの石がある。チョコレートケーキを思わせる色合いと大きさをしている。チョコの部分は黒紫色に輝き、それを真白なクリームが覆っていると思えばよい。実は、この石は石灰岩で、光っているのは長時間を経て結晶質になったからで、クリームはできたてだからである。

時間の異なるものの出合いが見られる石なのである。その時間差は1億年以上。この差の部分は「不整合」といい、この石ができる時、陸になったことを示す証拠である。その隙間には次のような事実が隠されているのだ。
 …1億数千年前、そこはテーチス海と呼ばれる海であった。現在のヨーロッパの地中海がインドや東南アジアを経て、琉球列島・九州辺りまで一続きだった時代があった。そのテーチス海の一部が現在インド側でヒマラヤ山脈をつくり、さらに地中海はその名残で、古地中海と呼ばれている。
 手のひらの黒っぽい石は、その海に堆積してできたものである。当時の海に生きていた薄くて大きな皿貝(さらがい)化石が、そのことを物語っている。その後テーチス海は、地球の鼓動に合わせるように浅い海になったり、陸になったり、再び深い海になったりを繰り返したことが、ヤンバルの地層から読み取れる。そして今からおよそ百万年前、そこは北限のサンゴ礁の海に変じた。陸地の縁にへばりついて発達した裾礁型のサンゴ礁である。これが後の沖縄の代表的な石となる、琉球石灰岩である。できたてなので軟質で、イシグー(石粉)といえば容易に理解できよう。
 つまり、この石の白黒の境目には、ウチナーの島々がいつ、どのようにしてできたか、そのシナリオが収められているのだ。それを語るとすれば、2時間は語れよう。「石は無口な歴史学者」なのだ。辺土岬まで行けばこの石に会えるはず。
(大城逸朗、おきなわ石の会会長)