コラム「南風」 てぃるまーしゃよ


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 数年前、名護の屋外イベントの現場で熱中症になり北部の病院に運ばれたことがあります。意識が戻ってきたところで「昭和55年あなたと同じ誕生日で同姓同名の受診記録があるのですが」と聞かれました。別人だろうとカルテを確認すると、住所は伊江島の祖父母宅。生後3カ月、祖父母と来院と記載されていました。

 私は幼い頃、いろいろな事情があって、伊江島に住む祖父母の下で育てられたそうです。島の診療所では手に負えない発熱だったのでしょう。当時の祖父は70歳近く、祖母も60歳を超えていました。そんな2人が首もまだ座らぬ赤子を連れてフェリーに乗り、バスやタクシーを乗り継いで名護まで連れてきたかと思うと今でも涙が出てきます。
 その祖父母がよく私にかけてくれたのが「てぃるまーしゃ」という言葉でした。伊江島の方言ですが、直訳すれば「めずらしい」という意味でしょうか。「この子はてぃるまーしゃだね」と言えば、「稀(まれ)なくらいお利口さん」という意味になります。今生きているのは祖母だけで、認知症を患い、私のことは分かりませんが、私の中では祖父母の「てぃるまーしゃ」は鮮明に生きています。
 昔からプライドが高く、頑固だった私。だからこそ慎みや温和、謙虚といった人間像を目指すのですが、三つ子の魂百までとはよく言ったもので、そうは性格は変わりません。それに悩むこともしばしばです。しかし祖父母は、周りから何を言われても信じた道を貫き通し、己の気持ちに正直な私をとてもかわいがり、「てぃるまーしゃよ」と言ってくれていたような気がします。
 おぉじ、おぉば。わがままなくらい自分に正直に生きている私ですが、皆さんのおかげで今日もマイクの前に座っています。今の私にまた「てぃるまーしゃよ」と声を掛けてくれますか。
(大城勝太、エフエム沖縄アナウンサー)