コラム「南風」 人魚に会えた日


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 昨年の夏に、およそ5年ぶりに長編映画を制作した。タイトルは「人魚に会える日。」。人魚伝説の元となったといわれる生き物・ジュゴンを題材とした物語だ。しかし、この作品は以前、同じタイトルで一度撮影をしていたものだ。度重なるトラブルで撮影を終えることができなかったため、新たにシナリオを修正して、再び撮影に挑んだのだ。

 第1回目の撮影は、僕が中学生のときだった。
 「いつか沖縄の海でジュゴンを見たい。そして、ジュゴンを主役にした映画をつくりたい」
 年に数回、大浦湾で目撃されるジュゴン。ニュース番組でその姿を見て、いても立ってもいられなくなった僕は、友達と一緒にジュゴンを撮影しようと、大浦湾の広がる辺野古へ出掛けた。小さな民宿に泊まり、毎日船を出しては潜ってジュゴンを探す日々。目撃した地点を地元の漁師から聞いたりと、本気で探したのだが、結局その姿を見ることはできなかった。しかし海中で、ジュゴンが餌であるアマモを食べた跡を発見することができた。それは僕に、「この海にジュゴンはいる」ということを確信させた。
 ジュゴンの姿を大浦湾で見ることができなかった僕は、高2になって、日本で唯一ジュゴンが飼育されている三重県の鳥羽水族館へ足を運んだ。水槽の中で泳いでいるジュゴン。それが、生まれて初めてジュゴンに出会った瞬間だった。飼育員にお願いして水槽を真上から覗(のぞ)かせてもらい、ジュゴンの生態について教えてもらった。人間と同じようにヒレに5本の指の骨格があるという。尾びれをなびかせて泳ぐ姿は、まさしく伝説の人魚そのものだった。
 そんな僕の経験は、新しいシナリオにセリフとして加えられ、物語のなかで生きている。
(仲村颯悟、映画監督)