コラム「南風」 小さな野菜の力


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 野菜を買うときは、できるだけ小さなものを選ぶ。小さな野菜にはあまり肥料が入っていないからだ。肥料が入っていないと実も締まって美味(おい)しい。さらに驚くべきは腐らずに枯れてゆくということだ。

一方、未完熟の肥料が大量に入っている有機野菜は、ドロドロに溶けて腐り、アンモニア臭と糞(ふん)の臭いがものすごい。肥料を入れずに野菜ができるなんてと驚く人は多いが、リンゴ農家・木村秋則さんが沖縄で講演会を行ってからというもの、無肥料無農薬の自然栽培に挑戦する農家さんが増えている。
 中でも究極の存在が今帰仁村「むい自然農園」の益田航さんだ。益田さんは8年前から耕さず、天水だけの完全な自然栽培を行っている。日照りが続けば近くの御嶽(うたき)で水をくみ、何度も往復して水かけをする。除草剤もかけないので、朝から晩まで地を這(は)うようにして雑草を刈り、刈った草は作物の周りに丁寧に敷きつめ草マルチにする。そして「ありがとう」の声掛けを欠かさない。これぞまさに掛肥(かけごえ)。作り手の愛や言葉は一番の肥料になるのだ。しかし、こんなに難儀をしても金銭的には報われていないのが実情だ。それでも畑にいれば歓(よろこ)びの方が勝ると益田さんは笑う。
 私たちはこれまで食べ物を大量に得ようと無理のある農法や畜産を行い、環境を破壊してきた。ここ数年、激しさを増す自然災害や異常気象は地球の悲鳴のように思えてならない。今、私たちに迫られているのは「量」から「質」へのシフトだ。天と地のエネルギーだけで作る自然栽培の野菜は、環境に負荷をかけない上に高品質である。
 私が運営する浮島ガーデンでは、毎月第2日曜日に契約農家さんによる直売「ハルサーズ・マーケット」を開いている。小さくてもしっかりと味のある野菜を食べて細胞が歓び、蘇(よみがえ)るのを感じていただきたい。
(中曽根直子、風土コーディネーター)