コラム「南風」 待つこと


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 夕方近く、私のもとにコップ1杯の水が届く。「ありがとう。ちょうど喉が渇いて、すごーく飲みたかった~」私は、そう言って、一気に飲みほす。うれしそうに照れ笑いするAちゃん。彼女は小学5年生、自閉症の障害がある。力のコントロールが上手にできず、コップの水をこぼさずに運ぶことが簡単ではない。

 ある日、ファストフード店で、いつものように私に水を運ぶつもりだった。鼻歌を歌いながら冷水器の水をコップに入れ、いざ進もうと振り返った瞬間、通路の狭さに気付いた。後悔の様子が、「パニック」に現れた。その場から進めず、うろうろ、ぶつぶつと「怒りスイッチ」も作動した。周りの人たちが振り返った。
 私は場所を変え、Aちゃんが落ち着く時間をもった。動作を振り返り、Aちゃんが「できた」小さなことをほめ、モチベーションの回復を試みた。「どうしたら行ける」などと声を掛け、Aちゃん自身に考えてもらう作業をした。最後に「もう一回やってみる?」と選択を促すと、挑戦意欲ばっちりになっていた。
 体を揺さぶり助走をつけ、足で床を確かめるようなしぐさや、横歩き。まるで“恐怖の館”の中にいるような真剣な顔で、再トライする。そんなAちゃんの愛らしさに、つい笑みが出る。そして最後の一歩が出た時、「やった~」と、お互いにハグをした。
 店内の方々に、水をかけてしまったお詫びと、協力のお礼とを伝え、忘れていた昼食のハンバーグがご褒美になった。Aちゃんの表情は、課題を達成できた喜びで輝いていた。
 子どもたちが課題を乗り越えていくための訓練の機会は、日々の生活の中にたくさんある。そして、大人は「待つこと」を大切にし、子ども自身が、何をすればいいのか考えることを促すための、声掛けが大事だと思っている。
(名幸啓子、障害児サポートハウスohana代表理事)