コラム「南風」 出会えば変わる


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 少年院の子どもたちから「どうすれば人生が変わるのか」という相談を受けることが、よくある。この手の問いに、知識人たちが口をそろえて主張するのは「動けば変わる」。要は、行動が大切というわけだ。

 なるほど、確かに、行動を起こせば、そのとおりになるだろう。ただ、表現としては、いまひとつ正確でないように思える。たとえば、行動が大切だからと、家に引きこもって、毎日千回の腕立て伏せに挑戦したとする。これで人生が変わるだろうか。否、変わるのは体格くらいだ。
 では、なぜ、動けば変わるのか。それは、行動を起こした結果、新しい出会いが生まれ、その出会いが人生を変えるきっかけをくれるからにほかならない。つまり、「出会えば変わる」が正確な表現なのだ。
 思い出してほしい。あなたにも、大なり小なり「人生が変わった瞬間」があったはずだ。善い方向に変わったとき、そうでない方向に変わったとき、どちらでも構わない。そのとき、そこで何があったのか?
 そう、出会いだ。師と出会って、生きざまに憧れたり、愛(いと)しい人と出会って、相手に見合う自分になろうと決意したり、一編の小説と出会って、主人公のような生涯を夢見たり…人生は、そんな瞬間に音を立てて変わり始めるのだ。
 僕は、成功者に出会うと「どうして人生が変わったのですか」と質問する。すると、一流の人間ほど、申し合わせたように同じ答えを返してくる。「〇〇さんと出会ったからです」と。
 断言するが、人生は、誰と出会うかで決まる。だからこそ、まずは僕たち大人が、最高の人間として、子どもたちに出会うのだ。
 彼らは待っている。英雄(ヒーロー)の登場を指折り数えて待っている。待たれている僕たちは、力をつけなければ。彼らとめぐり会う、その日のために。
(武藤杜夫、法務省沖縄少年院法務教官)