コラム「南風」 胸に刻む言葉


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 大事にしている一枚の写真があります。撮影されたのは高校2年の冬、放送コンテストで。県代表として福岡県に派遣された時の写真ですが、少し落ち込んだというか…仏頂面です。

それもそのはず、実は「あなたは不遜極まりない」と恩師に激しく怒られた翌朝の写真なのです。
 コンテストで賞を頂くようになり、有頂天で浮かれていたころでした。大会日程を終え、仲間とおいしいラーメンでも食べに行こうと、先頭に立ち、コートを羽織った時に恩師に呼ばれました。「あなたの朗読は自分に酔っていて気持ち悪い。声に不遜さがにじみ出ている。不遜極まりない」と痛烈でした。そして恩師は私に、この一句を差し出しました。
 「菊の日や もう一度紺がすり 着てみたし」
 沖縄に戻ってから学校の図書館にこもり、誰の句なのか、どんな意味なのか必死に探しました。そして「宮本武蔵」や「新平家物語」で有名な故・吉川英治が昭和35年、文化勲章の授賞式を控えた朝に詠んだ一句だと分かりました。「自分は勲章をもらえるような人間ではない。もう一度、紺がすりを着ていた学生に戻って勉強したい」という意味でした。有名になり齢(とし)を重ねても、なお謙虚な姿勢で文学と向き合う大作家の姿勢に学べ、という恩師からのメッセージだったのです。多くを語らず、一句を渡し、それを調べさせてくれたおかげで、今でも吉川英治の言葉は私の心の大きな支えです。
 しかしそうは言っても、相変わらず知ったかぶりが得意で「わかりません」と素直に言えない不遜な私。大人になってそのことを恩師に相談すると、今度は「我以外、皆我が師」(吉川)を胸に刻めと助言してくれました。謙虚でない自覚があるのなら、せめて謙虚でありたいという強い願いだけは持ちなさいと。
(大城勝太、エフエム沖縄アナウンサー)