コラム「南風」 いま知っておくべきこと


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 沖縄戦の正式な終結は、6月23日の「慰霊の日」ではなく、9月7日であることを、沖縄県民ですら知らない人が多い。理解しているようで意外と知らないこの島の歴史。

 小学生の頃、学校の課題作成のため、沖縄戦について祖父に尋ねたことがある。「空襲は花火のようで綺麗(きれい)だったよ」と祖父は笑った。あの頃の僕は、祖父は戦争で悲惨な経験をしていなかったんだな、と純粋に思っていた。しかし、大きくなるにつれて気づいたことがある。戦争のつらい経験を思い出したくなかったのだと。孫に話したくなかったのだと。
 先日、テレビ番組の取材で祖父に沖縄戦について話を聞くという企画があった。おそらく、テレビ番組の企画でなければ、もう二度と話を聞けなかったと思う。祖父は、笑顔を見せることなく、重い口を開いた。これまで聞いたことのない、祖父の沖縄戦の体験。ただただ、頷(うなづ)くことしかできなかった。
 おそらく、あと10年もたてば沖縄戦について語ることのできる人は僅(わず)かになるだろう。だから、今こそ沖縄戦に向き合わなければならないと思う。
 来年公開の映画「人魚に会える日。」には、僕の戦争に対する思いをセリフとして至るところにちりばめた。物語に直接戦争が関わるわけではないが、どうにか映画を見た人に伝わってほしいと思い、書いたセリフの数々。
 こんなにも「戦争」という二文字が、戦後70年たったこの国のニュースで流れるなんて、誰が想像しただろうか。新聞を毎日欠かさず読んでいる祖父は、今の日本に、沖縄に、どんな思いを寄せているのだろうか。言葉にできるほど簡単ではない思いの数々を、戦争経験者が見てきたこの島の歴史を、今のうちに聞いてほしい。知ったかぶりでは、終われない。
(仲村颯悟、映画監督)