コラム「南風」 グリーフ癒やす絵本


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 絵本は、疲れた心をときほぐす癒やしアイテムのひとつだ。グリーフ(死別悲嘆)という深い悲しみを見つめ、受けいれ、前に進んでいくための本や、グリーフに関する体験談や慰めに満ちた書籍などをグリーフブックという。絵本もグリーフブックのひとつで、グリーフケアの効果がある。

 絵本は、ほんのひととき厳しい現実を遠ざけてくれる。自分のペースで短い言葉をかみしめ、繰り返し味わうことで、心に染みる語りかけを聴く。絵本の世界に身をゆだね、登場人物に自分を重ねると孤独感も和らぐ。そして、物語の中で生老病死が自然に扱われるので、直視するにはきつい体験や、抑圧している感情にも素直に向き合える。
 また、子供のような素直な直感で「気づき」が得られる。自分の状況をいつの間にか客観的な視点でとらえさせられ、自己認識や納得感を得る。さらに、絵本の多くは、自身が愛されている大切な存在であることを主題にしている。愛する人との死別で無力感に陥りやすいときに、自分らしさを回復させてくれるのだ。
 絵本には、喪失やグリーフをテーマにした作品が数え切れないほどある。おすすめは、「だいじょうぶ だいじょうぶ」(講談社)、「いつもだれかが…」(徳間書店)、「くまとやまねこ」(河出書房新社)、「わすれられないおくりもの」(評論社)、「いのちの木」(ポプラ社)など。
 このような絵本に親しむことで、悲しみや辛(つら)さの中からこそ生まれてくる人生を見つめる力が育まれ、さらに豊かな自分と出会える。作家柳田邦男は、「人生経験を積んだ大人が自分のために読むとき、生き方や生と死の根源にふれるような深い味わいが、絵本にはある」と言う。絵本は心の奥深いところをそっと揺すり、グリーフを和らげてくれる。
(関谷綾子、グリーフワークおきなわ)