コラム「南風」 ハブは地史の生き証人


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 観光パンフレットの中に「沖縄では、集落の入り口に棒が置いてある。これはハブよけだ」とあった。ハブに用心しろということだろうが、ハブのおかげで沖縄の自然が守られているのは確かである。

 ハブ属は、古くから沖縄に棲(す)む生き物である。2~3万年前のハブの化石が県内各地から出ていることがそのことを物語る。かつて大陸・台湾を経由して渡来した。そして遅々とした歩みながら北上した。しかし無情にも目の前の陸地が崩壊するのを目撃したのである。つまりトカラ海峡の形成である。トカラ海峡は沖縄と九州の間を分断する海だ。この海峡以北に、化石などハブの痕跡がないのがそのことを証明している。沖縄全域に広がったハブ属は、その後の地殻変動によって島々にとり残され、トカラ列島のトカラハブ、奄美・沖縄のハブ、そして八重山のサキシマハブに種分化したのである。
 「ハブは、島一つ越しに生息しているらしいが本当か」と尋ねられることがある。そのようなことはない。地殻変動によって、水没したところかどうかなのである。全域サンゴ礁からなる島では絶滅したはずだ。しかし、宮古島は不思議な島で、ハブは現生しないのに驚くほど多数のハブ化石が出土している。ハブは、島の先住者であり、島々の形成の一部始終を目撃した証人なのだ。
 ハブは、現在生存の危機に直面している。すみかを追われ、姿を現せば撲殺され、道路では轢(ひ)かれてアスファルトと区別がつかないほどの姿となり、絶滅寸前である。ハブは島々の地史を語る貴重な生き物というのに。
 薄暗い墓地近くの道路に「ハブと痴漢には気をつけよ」との立て看があった。痴漢と一緒にされたのではさぞ迷惑だろう。ハブの名誉のためにも、その存在価値を広めるべく頑張らねば。
(大城逸朗、おきなわ石の会会長)