コラム「南風」 「聴く」と「伝える」


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 産業カウンセラーという資格を持っています。「産業」とつくので起業支援の資格と勘違いされることもありますが、さにあらず。企業や組織で働く経営者や労働者およびその家族を対象に、カウンセリングや組織へのコンサルテーションなどの活動を通して、個人とともに組織が抱える多様な心の問題の解決への支援を行い、快適な職場環境づくりに寄与するカウンセラーです。創設55年を迎える歴史ある資格です。

 「伝える」を生業とする私が「聴く」ことを学び始めたのには理由があります。ユダヤのことわざに「人には口が一つなのに、耳が二つあるのはなぜか。それは自分が話す倍だけ他人の話を聞かなければならないからだ」という言葉があるそうです。伝えるためには、まずは「聴かなければ」(取材しなければ)話になりません。私は一人の伝え手である前に、良き「聴き手」でありたいと思ったのです。
 「聞く」と「聴く」は違います。「聞く」(hear)は意識せず、耳に入ってくる音をただ受け入れること。対して「聴く」(listen)は、意識して音に耳を傾けることです。だから私はアナウンサーとしてもカウンセラーとしても、「聴く」プロでありたいと常に心掛けています。
 良き聴き手であるために、私は3つの基本的な態度を大事にしています。心と体が一体となり、自分自身の感情を素直に受け入れる「自己一致」。相手を独立した存在として尊重する無条件の「肯定的配慮」。そして、目の前にいる取材対象者(カウンセリングではクライアント)の主観的な見方、感じ方、考え方などを受け入れて理解する「共感的理解」です。
 「伝える」と「聴く」。対照的なようですが、両方を極めようと努力することが、今の私の仕事を支えているのかもしれません。
(大城勝太、エフエム沖縄アナウンサー)