コラム「南風」 モノ作りとアイデンティティー


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 オキネシアを立ち上げる前の話です。思うところあって当時勤めていた会社に無理をお願いし、3カ月ほど休職して旅に出ました。リュックひとつ、齢(よわい)30を過ぎてのバックパッカーです。台湾・香港を振り出しに東南アジア・ヨーロッパ・北米・中米・南米など20カ国を歩きまわり、地球をぐるりと一周して沖縄に戻りました。

 各地の名所旧跡を訪ね、多様な民族・宗教に接し、貴重な異文化体験を得ることができましたが、意外にも一番印象深いできごとは、旅先で出会った人々の「あなた何者?」という問い掛けでした。日本人と沖縄人。ナショナリティーとアイデンティティー…。その問い掛けは、僕自身のルーツを振り返り、ウチナーの歴史や文化と向き合うきっかけを与えてくれました。
 沖縄のアイデンティティーは言い換えると「沖縄の独自性」です。食文化をはじめ沖縄ならではの自然・言葉・音楽・芸能・風習・行事などなど、数えあげればキリがないほど沖縄(琉球)の独自性は多彩です。もちろんそこには伝統工芸品やさまざまな特産品も含まれ、アイデンティティーの一翼を担っています。もしも独自の自然が失われ、独自の言葉が途絶え、独自の物産が消え…というような事態になれば、それは「アイデンティティーの喪失」を意味します。アイデンティティーの喪失は沖縄が沖縄でなくなることです。子どもたちの未来のためにも古里の独自性を守り、伝え、創造してゆかねばなりません。
 海外放浪から戻って数年後、僕はオキネシアを創業しました。食品・非食品を問わず幅広い商品開発を志した理由は、沖縄のアイデンティティーに繋(つな)がる仕事がしたかったからです。いまだ試行錯誤の連続ですが、県産素材を生かしたモノ作りに携われる恵みに、感謝したいと思います。
(金城幸隆、オキネシア代表取締役社長)