コラム「南風」 映画公開への始まり


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 来年2月に公開される映画「人魚に会える日。」は、前作「やぎの冒険」とは異なり、主要スタッフは全員沖縄出身の大学生。映画製作の経験がない素人スタッフが、キャストへの出演交渉から機材の取り扱いまで全てを担った。もちろん、沖縄を代表するタレントやアーティストが参加し、それを大学生がまとめるのは僕を含め、キャストの方々にとっても過去に例のない映画製作の現場となった。

 昨年の夏に撮影を開始し、大学生スタッフが汗を流しながらも全力で撮り終えた作品は、長い編集作業を終え、ようやくことし3月に完成した。撮影中は終始ドタバタとしていたが、出来上がった作品を鑑賞して、スタッフ一同ホッと胸を撫(な)でおろした。
 しかし、映画における「完成」は、「終わり」ではなく「公開への始まり」なのだ。撮影同様、公開までの間、映画を宣伝していくのも大学生だ。完成を迎えた僕らの前には、「公開」と「宣伝」という大きな壁が現れた。
 今回の作品は、身内に見せて楽しむために撮った作品ではない。沖縄で生まれ育った若者が切り取った「今の沖縄」を県内の大人たち、そして県外・海外の人々へ伝えるために製作した作品だ。しかしながら僕自身、どのように映画を公開へ導いていくかを知っているわけではなかった。「やぎ…」のように、大人のスタッフが宣伝プランをひねり出すわけではない。全てを一から自分たちの手でやらなければならない。そして、宣伝プランを練ることと同時に、劇場で上映するには映像のデータをフィルムに変換するなどといったことのために多額の費用が必要になってくる。
 3月の完成披露試写会を終えた後、スタッフの中から新たに結成された「人魚興行チーム」は、多くの苦悩を抱えることとなった。
(仲村颯悟、映画監督)