コラム「南風」 AM6:00


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 僕の尊敬する作家に、喜多川泰(きたがわやすし)氏がいる。ベストセラーとなった代表作「手紙屋」をはじめ、著作の累計は60万部以上。少年院にお招きしたいと数年前から構想を練っているが、残念ながら、まだ実現していない。いつか、必ず子どもたちに引き合わせたい、素晴らしい人物の一人だ。

 以前、その喜多川氏と懇談した際、少年院の本棚に氏の著作が並んでいること、人気を集めていることなどを伝え、子どもたちにメッセージをもらえないかと相談したところ、快く承諾してくれた。喜多川氏は、まず、僕に、少年院に収容されている子どもたちの年齢を尋ねた。そして、20歳前の年頃が中心であることを確認すると、落ち着いた口調で続けた。
 「武藤先生、日本人の平均寿命が80歳だとします。それを1日24時間に置き換えてみてください。80歳が夜の24時だから、40歳が昼の12時。20歳は朝の6時です。つまり、少年院の子どもたちは、午前6時前の、まだ薄暗い朝もやの中を生きていることになる。彼らの人生は、これからなんです」
 子どもたちとカウンセリングをしていると、「自分の人生、もう終わってます」といった、投げやりな言葉を耳にすることがよくある。そんなとき、僕は決まってこのメッセージを紹介し、こう付け加える。
 「終わってるどころか、まだ始まってもいないさ。これから太陽が昇り、長い一日が始まるんだ。時間はたくさんあるし、何なら夜中まで眠らないで遊べばいい。僕たちは、楽しむために世の中に生まれてきたんだからね。さあ、今から、僕と一緒に、この人生を楽しむ方法を考えよう」
 曇っていた子どもの表情に、ぱっと光が差す。水平線から立ち昇る黄金色の朝日のようにまぶしいその笑顔は、今日を生きる希望に満ちあふれている。
(武藤杜夫、法務省沖縄少年院法務教官)