コラム「南風」 イングランド ラグビー紀行(1)


この記事を書いた人 外間 聡子

 9月18日に開幕したラグビーW杯イングランド大会。国中がラグビー一色に染まっていた前回ニュージーランド大会とは違い、会場の都市以外は落ち着きがあり、ラグビーの母国としての風格や威厳を感じた。その中で、世界中のメディアも大きく取り上げた「ラグビー史上最大の番狂わせ」の瞬間に、幸運にも立ち会うことができた。その日本代表対南アフリカ戦は、私の心に永遠に刻まれる試合となった。
 2万9千人の観客で埋まったスタジアムは、日本代表を応援する赤白のジャージーより、南アフリカの緑色の方が明らかに多かった。しかし、試合が進むにつれスタジアムの空気は徐々に変わっていき、自然発生的に繰り返された「ジャパン」や「ニッポン」コールが、何度も何度も会場を包み込んだ。また、相手チームの好プレーへの拍手を惜しまないだけでなく、ミスを喜ぶ拍手も必要以上にはしない。そういった観戦マナーを知るファンの「成熟度」も、スタジアムの雰囲気を最高潮にした要因だろう。
 海外でのラグビー観戦が好きで、これまで数多くの試合を見てきたが、こんなにも劇的な試合内容と結果に、涙を流し、観戦したのは初めてだ。そして、感激はそれだけではなかった。試合後、日本代表のジャージーを着た私たちは、「Well done!(よくやった!)」「Congratulations!(おめでとう!)」と、本当にたくさんの人々に祝福された。南アフリカのジャージーを着たファンからも、悔しさをぶつけられることは皆無で、称賛の言葉ばかり。握手やハイタッチを求められた回数は想像もつかない。一ファンでしかない私たちにも敬意を表してくれたことに感銘を受けた。歴史的勝利のみならず、歴史が育んできたラグビー精神の神髄にも触れ、二重の喜びに浸り切った一日となった。
(安村光滋、県ラグビーフットボール協会理事長)