有料

情報源は新聞 大切な日課<小川糸「一筆申し上げます」>


情報源は新聞 大切な日課<小川糸「一筆申し上げます」> 小川糸「一筆申し上げます」
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 私はただいま2拠点生活をしておりますが、早春から初冬までを過ごす森の山小屋にも、越冬をするための里の住まいにも、テレビはありません。もともと、それほどテレビを見ていたわけではありませんが、テレビのない生活をするようになって、かれこれ10年近くになるでしょうか。不便を感じることはほぼありません。

 情報源は、もっぱら新聞です。私は、新聞が大好きです。以前は紙の新聞を購読していましたが、今はインターネットで新聞を読んでいます。朝起きて、お茶を飲みながら新聞を読む、という行為が、私にはとても大切な日課です。

 ですから、たまにテレビを目にすると、情報の多さにめまいがします。もちろん、上質なテレビ番組もたくさんありますし、私は特にドキュメンタリーが好きなので、そういう意味ではテレビに感謝している面もあります。幸い、どうしても見たい番組は、今はたいていネットで視聴することができます。ただ、ワイドショーに限って言えば、本当に無駄が多い、というのが正直な感想です。

 私には、どうしても耐えられないことがひとつあります。それは、サウナの中のテレビです。私は日常的に日帰り湯に通っているのですが、サウナにテレビがあると落ち着きません。サウナは心身を解放し、リラックスする場所です。私は、静かに自分と向き合いたいのです。裸になってまで、テレビを見せられる道理が理解できません。これでは、脳を休めることができなくなってしまいます。

 しかも、誰もいない時でもテレビはつけっぱなしです。無人のサウナでテレビだけがついている光景は、シュールすぎませんか?

 同じような理由で、タクシーに乗車した際に見せられるモニターも、好きになれません。タクシーに乗ってまで、広告を見せられたくないのです。強引に広告を見せられると、自分が資本主義経済のブロイラーになったようで悲しくなります。液晶のモニターがあると、私は即座に画面をオフにします。

 情報があふれる時代です。情報源を自分で調節しないと、情報の渦にのみ込まれて自分を見失いそうで怖いのです。

 新聞には、喜怒哀楽、さまざまなニュースがあり、いつも心を動かされます。けれど、世の中的には新聞を読む人が少なくなっているのは事実のようです。残念でなりません。(小川糸、隔週木曜に更新)

 小川糸

 ☆おがわ・いと 作家。1973年山形市生まれ。デビュー作「食堂かたつむり」(2008年)以来30冊以上の本を出版。「つるかめ助産院」「ツバキ文具店」「ライオンのおやつ」がNHKでテレビドラマ化された。近作に「とわの庭」「椿ノ恋文」、エッセー集「糸暦」など。