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【識者】「係争委」在り方再考を 辺野古代執行訴訟 仲地博氏(元沖縄大学長)


【識者】「係争委」在り方再考を 辺野古代執行訴訟 仲地博氏(元沖縄大学長) 仲地 博氏(元沖縄大学長)
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 米軍普天間飛行場(沖縄県)の名護市辺野古移設を巡る代執行訴訟に沖縄県が敗れ、軟弱地盤の埋め立て工事を知事が承認しなければ、国が異例の代執行に踏み切る可能性が出てきた。地域の発展を目指し、本来は協力し合うべき国と自治体との間で、溝は深まるばかりだ。解決に向けた方策を地方自治に詳しい元沖縄大学長の仲地博氏(行政法)に聞いた。

 辺野古移設に向け、沿岸部の埋め立てを承認した沖縄県の仲井真弘多元知事でさえ、基地に関する国の政策は「差別に近い印象すら持つ」と表現した。それほど沖縄の負担は重い。出自に基づく民族的な差別はもう影を潜めたが、沖縄ヘイトなどを見ると全く無いとは言い切れない。この深層心理の上に沖縄米軍基地は支えられている。

 米軍基地は沖縄県に置いて当然という意識、それを沖縄では構造的差別と呼ぶ。普天間飛行場の代替基地を他県で造ろうとすると抵抗が大きいが、沖縄なら何とかできると考えていないか。1億人の無関心が、沖縄を「基地の島」にとどめ置いている。

 憲法が保障する地方自治には二つの意味がある。一つは地域政治が住民の意思に従って行われるという「住民自治」。もう一つは自治体が国とは別団体で、国の下部組織ではないという「団体自治」だ。沖縄県は国益という言葉に呪縛されなくてよい。

 移設を巡るいさかいの解決には、国の処分などに対する自治体の不服申し出を審査するため、1999年の地方自治法改正で設置された総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」が力を発揮する必要がある。

 この二十数年間で地方からの審査申し出は11件、そのうち8件は沖縄県からで、内訳は「却下」が4件、「国は違法ではない」が3件、「国と県の協議を促す」が1件。

 沖縄の主張が認められたことはなく、門前払いするだけの機関になっていないか。係争処理委は制度発足時の期待に十分応えていない。在り方を再考する必要がある。

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 なかち・ひろし 45年熊本県生まれ、沖縄県出身。北海道大卒、明治大大学院の博士課程を単位取得退学。琉球大教授や沖縄大副学長を歴任し、2014~19年に沖縄大学長を務めた。

(共同通信)