衆院3補欠選挙で自民党は、不戦敗となった東京15区と長崎3区を含めて3戦全敗となった。派閥パーティー裏金事件が決定的な要因だ。唯一候補者を擁立した島根1区は自民党が特に強い選挙区のはずだったが、それでも大差で負けたのだから、全国的にみて自民党に対する不信感と拒否感はかなり強いと言える。
国民は、自民党の政治資金への向き合い方に相当な憤りを感じている。政党交付金という形で税金も入っているのに、不透明でずさんな扱いを組織的に続けてきた。そのカネを政治家個人が乱用していたとの疑念も拭えない。しかも党として的確な処分を行うことができず、明確な再発防止策も示せていない。
これで国民の信頼を取り戻すのは不可能だ。何となくやり過ごせば支持者が帰ってくると考えているなら大間違いで、自民党は国民からレッドカードを突き付けられているに等しい。政治の世界から退場させられる一歩手前まで来ている。
支持を取り戻したいのなら、党内で抵抗が強まろうとも、政治資金規正法の大胆な改正に取り組む方向へかじを切るしかない。派閥による裏金づくりを許した党運営全体の改革もしっかりやらなければだめだ。
政治資金改革では、透明性の向上や、罰則強化に伴う連座制導入だけでなく、政治資金収支報告書を監査し勧告もする、独立した第三者機関を設置できるかが重要になる。だが、自民党が受け入れられるのか。できたとしても、形になって動き出さなければ信頼は戻らないし、そこまで至るには時間がかかるだろう。自民党にとって厳しい局面が当分続く。
こうした全体状況を踏まえると、岸田文雄首相が視野に入れているとされる6月の衆院解散は、さすがにないだろう。
政局の焦点は秋の自民党総裁選に移ることになるが、岸田首相は内閣支持率の低さに見られるように国民から支持されず、党内の信認も得られていない。
総裁選では国会議員票より、民意の反映である地方の党員票を獲得できる候補が優位になるのではないか。
加えて、これから先の日本は少子高齢化がますます進むので、国民に一層の負担を求める政治にならざるを得ない。だからこそ自民党は政治資金の問題に厳しく取り組んでいかないと、負担増路線となる次のステップに進めないし、政権党としての資格もない。
このことは、今回の3補選で全勝した立憲民主党と、他の野党にも言える。「安倍1強」以来の自民党の強い体制が終わりを告げる中で、立憲民主党が野党の中核になるなら、どうやって共産党や日本維新の会を含めた野党連合の形を作り、政策パッケージを示していくのかが問われる。
立憲民主党の代表は、自身が有力な次期首相候補になっているとの自覚を持つことも必要だ。秋には代表選がある。
自民党と立憲民主党がそれぞれの党首選でリーダーを選び、政権構想を競い合えば、国民にとってはその後の衆院選が、まさに政権選択の機会になる。
今回の3補選により、政治はその入り口に差しかかったと言えるのではないか。 (談)
まきはら・いづる 1967年愛知県生まれ。東京大博士。専門は行政学、日本政治史。著書に「崩れる政治を立て直す」など。
(共同通信)