美浜アメリカンビレッジの持続的発展の鍵を握ったのが、役場による街づくりの土台、それを発展させた事業者の熱意だ。
町はアメリカンビレッジ内に1500台規模の無料の町営駐車場を整備した。当時大規模な無料駐車場は珍しく、議会から反対の声も出たが「人が集まるには無料駐車場が必要」(辺土名朝一元町長)と、町は役場建設候補地を開放した。結果、客の長時間滞在につながり、町にとっては企業に土地を売り込む目玉事業となった。
「進出のため企業は何十億円も投資する。町も活性化のために本気で取り組む姿を示す必要があった」。企業誘致室職員で第一線にいた前副町長の神山正勝氏(73)は、シンボル道路の整備や中日ドラゴンズのキャンプ誘致など町の取り組みを挙げる。「計画を淡々と進めただけだが、それを企業が見てくれた」
町建設経済部長などを務めた仲地勲氏(70)は、先行投資目的で進出を希望する県外企業を見てきた。「トラックに札束を積んで『土地を買いたい』という企業もいた」。町の活性化という、役場の方向性と一致する企業か見極めるため、町は開発基本指針を策定。「土地の10年以内の転売禁止」「2年以内の着工」「4年以内の開業」―のルールを設けた。
97年開業の飲食店「ダブルデッカー」オーナーで、北谷町飲食業組合組合長の兼城和彦氏(59)は「行政が街のテーマをつくったおかげで、事業者は構想を基に発展できた。街はいいように変わっている」と、行政との連携を強調する。
企業それぞれが街づくりに参画し、発展の一役を担った。2008年、奥原商事が旧国民年金健康センター「サンセット美浜」を買い取ると、10年に複数の事業者が共同で、跡地に「デポアイランド」を開業した。
街には事業者の知恵と工夫がちりばめられている。カラフルな建物は「沖縄の太陽の魅力を引き出す色使い」、曲がりくねった道は歩いてワクワクしてもらうためだ。海岸沿いの道は護岸まで行かなくても海が味わえるよう底上げした。毎年11月には事業者で海外のクリスマスマーケットを視察するなど、魅力づくりのため努力を欠かさない。
街づくりに関わる1人の男性は「この街を通して沖縄の景色を見てほしい」と思いを語る。「これでいいと満足したら終わりだ。常に新しい魅力をつくらなければならない」
神山氏も「『必ず世界一の街になる』という熱意を持った事業者たちに囲まれ、アメリカンビレッジの初期の目的が達成できた」とうなずく。
13年には町のフィッシャリーナ地区が稼働し、「ヒルトン沖縄北谷リゾート」などの一流ホテルも立地した。辺土名元町長は「西海岸に面して、うまい具合に土地が生きている」と目を見張る。50年前、村の行政マンたちが描いた街の姿は、熱い思いを持った事業者たちによって、新たに形づくられている。
(石井恵理菜)
ニライの都市へ 北谷・振興計画50年 目次
- (1)行政マンが作った全国有数の映えスポット・美浜 「基地の町」から「魅力ある町」へ
- (2)バブル崩壊、町は1日100万円の借入利息に直面
- (3)「この角地を買いたい」塩漬けエリアが動き出した瞬間
- (4)目玉は1500台の町営無料駐車場 街づくりのテーマに事業者も呼応 「土地を買いたい」トラックに札束積む企業も
- (5)止まらない地価高騰「若者は住めない街に…」 米軍向けから需要変化 移住者、別荘、海外の富裕層投資も
- (6)4千人増の想定も住民票置かず…「投資に人気の地」のジレンマ」 基地返還で定住人口増へ
2024年(令和6年)3月に掲載された石井恵理菜記者による連載「ニライの都市へ 北谷・振興計画50年」全6回は、琉球新報デジタルプライムで読めるほかに、電子新書として読み切りで購入することができます。