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4千人増の想定も住民票置かず…「投資に人気の地」のジレンマ」 基地返還で定住人口増へ<ニライの都市へ 北谷・振興計画50年>6


4千人増の想定も住民票置かず…「投資に人気の地」のジレンマ」 基地返還で定住人口増へ<ニライの都市へ 北谷・振興計画50年>6 北谷町役場に隣接する、2025年度以降に返還予定の「キャンプ桑江南側地区」=22日、北谷町桑江
この記事を書いた人 Avatar photo 石井 恵理菜

 基地経済に依存していた「顔のない街」は、行政や事業者の力で魅力ある地に発展を遂げた。“街づくりの成功例”とも言われる北谷町は現在、地価高騰や人口問題などの新たな課題に直面している。

 「街が人気になり地価が上がるのは、行政として街づくりの成功例の形ではある。だが人気が出れば地元の方が住みにくくなり、ジレンマだ」。家賃高騰などで若い世代が町外に流出する現状に、町企画財政課の花城可津人課長は頭を悩ませる。

 町の人口は、24年2月現在2万9160人で、近年高止まりが続く。03年返還の米軍キャンプ桑江北側地区は、区画整理地内で4千人増を想定したが、その数は増えていない。不動産関係者は「投資に人気の地」とし、投資目的で住民票を置かない人が多いと指摘する。

 花城課長は「町は子育て世帯への支援が充実している。全体で見たときに、子どもが多いほど近隣市町村と支出は同じ程度か、もしくは安く抑えられるはず。トータルで見てもらうように取り組む」と述べる。

 北谷町は給食費無償化や高校生までの医療費無償化など県内でも率先して子育て支援を拡充させた。05年から4期16年町長を務めた野国昌春氏(79)は、現在に続く子育て支援を形作った。「当時は西海岸へ投資がシフトしがちだった。子育て世帯が住みやすい町にするため、子育て支援に金を惜しんではいけない」と、町の均衡ある発展を目指した。

 「まだ返還されていない“もう一つの北谷町”を町民と共に築いていかなければならない」。渡久地政志町長は、町面積の51.6%を占めるキャンプ桑江、キャンプ瑞慶覧など米軍基地の存在を強調する。

 基地から派生する騒音や事件事故は、街づくりの課題だ。アメリカンビレッジ事業者会会長を務めた東恩納栄氏(56)は、01年に美浜で発生した米兵による女性暴行事件で事業者や自治会が連携し、防犯活動に取り組んだことを振り返る。「自分たちの町は自分たちで守ろうと連携した。地域との連携が街づくりには必要だ」と語る。

 03年返還のキャンプ桑江北側は米軍由来とみられる有害廃棄物が見つかり、跡地利用に支障を来した。全面供用開始は20年5月で、返還から17年が経過した。隣接するキャンプ桑江南側地区は、当初は07年度末までの大部分返還が合意されたが、日米の統合計画で25年度以降に先延ばしされた。県は返還後の直接経済効果が年間334億円で8倍になると試算する。基地のほとんどは平地や国道沿いの条件がいい地域に集中している。

 渡久地町長は「返還を進めれば住みやすい環境を整えられ、定住人口も増やせる」と返還の必要性を強調する。「基地返還を進めるには、住民とベクトルを合わせていくことも大事だ。目に見える形で跡地の経済的発展を進めていく」と力を込めた。

 (石井恵理菜)

 (おわり)

ニライの都市へ 北谷・振興計画50年 目次

  1. (1)行政マンが作った全国有数の映えスポット・美浜 「基地の町」から「魅力ある町」へ
  2. (2)バブル崩壊、町は1日100万円の借入利息に直面
  3. (3)「この角地を買いたい」塩漬けエリアが動き出した瞬間
  4. (4)目玉は1500台の町営無料駐車場 街づくりのテーマに事業者も呼応 「土地を買いたい」トラックに札束積む企業も
  5. (5)止まらない地価高騰「若者は住めない街に…」 米軍向けから需要変化 移住者、別荘、海外の富裕層投資も
  6. (6)4千人増の想定も住民票置かず…「投資に人気の地」のジレンマ」 基地返還で定住人口増へ

2024年(令和6年)3月に掲載された石井恵理菜記者による連載「ニライの都市へ 北谷・振興計画50年」全6回は、琉球新報デジタルプライムで読めるほかに、電子新書として読み切りで購入することができます。