【今帰仁】10月にあった今帰仁村仲尾次の豊年祭で、数え86歳の上間久武さんが同区の花形演目「八重瀬の萬歳」を演じた。年齢を感じさせない迫力ある演舞と鋭い眼光で会場を沸かせ、大きな拍手が送られた。次回のステージでも演舞を見たいと言う来場者の声も多く聞かれた。
上間さんは、教員として勤めながら区の豊年祭などで50年以上、地謡として尽力。青年時代は「上り口節」や「前の浜」などを踊ることもあった。
「八重瀬の萬歳」はこれまで区の重鎮が踊ってきたが、前回までの踊り手が亡くなった。上間さんがその方の自宅に手を合わせに行った際、家族から「夫は自分の次は久武さんに踊ってほしいと言っていました」と伝えられた。その思いを知り上間さんは数日葛藤した。次回の豊年祭には90歳近くなり、今回が最後のチャンスかもしれないと、「最初で最後」と「八重瀬の萬歳」に挑戦した。
本番に向けて1年余り、経験者などから身ぶりなど細かなアドバイスを受けた。録音した長尺のせりふを聞き、口にして反復し覚えた。
上間さんは教員時代、赴任先の各学校で三線クラブなどを立ち上げた。興味のある同僚らにもボランティアで指導。自身の母校・兼次小学校で校長として勤務し、100周年事業を成功させて退職。現在は息子の久仁さんも校長として教育に尽力し、親子2代で地域の子どもたちやその保護者らに親しまれ喜ばれている。
さらに琉球古典音楽野村流保存会の上間久武研究所としても自宅で地域の子どもたちにも三線をボランティアで指導してきた。三線の普及に尽力し、地域の伝統文化の発展に大きく貢献した功績がたたえられ、村と県文化協会から表彰も受けた。
今では近くに住む子や孫に囲まれ、妻洋子さん(82)と自宅菜園や花々などを育てる毎日。孫たちと、ジャガイモやタマネギなどの「収穫祭」が楽しみと2人は笑う。夫婦で穏やかな笑顔を見せ、面倒見もよく区民はじめ村内外からの人望も厚い。
豊年祭を終え、上間さんは「今回とても悩んだが挑戦してよかった。来る88歳のお祝いには、子や孫たちの前で妻と『加那ヨー天川』でも踊ろうかと夢見ているさぁ」と優しくほほ笑んだ。
(新城孝博通信員)