痛みに耐え 子宝願う 名護市久志区のドウドイ


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揺れるウマの上で股の痛みをこらえる桑江聖さん=3日午後、名護市久志

 ドウドイ、ドウドイ―。名護市久志(比嘉清隆区長)では、区民らの掛け声とともに新しい年、2013年の始まりが本格的に告げられる。子宝が授かるようにと、丸太で作った「ウマ」に男性をまたがらせて練り歩く独特の行事「ドウドイ」が今年も3日に繰り広げられた。

■選ばれた男
 「ドウドイ」は久志の年中行事「カーウガミ」(川・井泉拝み)の日に行われる。区民は集落内にある七つの川や古井泉を巡拝。その後、アダンと雑木林から切り出した丸太を十字に組み合わせた「ウマ」に男をまたがらせ、それを3人でかつぐ。「ウマ」を先頭に太鼓を鳴らしながら、区民が「ドウドイ、ドウドイ」の掛け声を上げて続く。
 初めて「ウマ」にまたがった桑江聖(さとし)さん(30)。長男の龍汰ちゃん(3)の妹がほしいと、妻のえりなさん(34)に勧められた。聖さんは、揺れるウマに顔を真っ赤にしながらも笑顔を保つ。終わった後は、「痛いしかない」と股をさすりながらも、「多くの人に祝福され、股にも良い刺激がきましたよ」と達成感にあふれていた。
 久志誌によると、カーウガミは遠い祖先が使ったとされる水への感謝と住民の健康、豊作を願う行事。「ドウドイ」は「ウマ」に乗れば子宝に恵まれるという言い伝えがあり、結婚して子宝に恵まれない人、男の子がほしいという人を優先する。

■婿いじめ?
 「ドウドイ」の由来はよく分からない。昭和初期まで各地で見られた行事にそのルーツがある可能性もある。
 民俗学者の宮城真治が住民に聞き取った「山原―その村と家と人と」(宮城真治資料・1、名護市史叢書、1987年)によると、旧士族階級の集落では「婿入り」の時に、集落の青年が待ち受けて、新婿を杵(きね)で作った木馬に乗せたという。その際「ドー・ドー・ドー・ドー」と声を掛け、太鼓ではやし立てた。
 この後、集落内の拝所を巡回するが、新婿にはわらの箸やイナゴ、カエルの入ったおわん、果ては酒の中にトウガラシと散々なもてなしが待っていたという。宮城は、大国主命(おおくにぬしのみこと)が嫁取りの時にさまざまな苦難を乗り越えた神話を引用しつつ、「種々の試練を終え末永く添い遂げるように祝福する意味のものであったが、後世その真義が忘れられ(中略)形式のみを残しているのではあるまいか」と推測する。
 由来は分からなくとも、集落の繁栄や住民の健康など行事に込められた願いはいつの時代も不変。久志区では「ドウドイ」以外にも、新生児を祝福する「キリシタン」など王朝時代から続く行事を守り続ける。比嘉区長は「集落の祭事に若い人が集まり、にぎやかになってきた。地域の人々と共に伝統行事を守っていきたい」と意気込みを語った。
(文・金城潤、嘉陽拓也)
(写真・渡慶次哲三)