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<書評>『「沖縄1972年」考 返還・復帰・再併合』 生き様と重なり合う覚悟


<書評>『「沖縄1972年」考 返還・復帰・再併合』 生き様と重なり合う覚悟 『「沖縄1972年」考 返還・復帰・再併合』後田多敦編著 琉球館・1650円
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「復帰」を思い起こし、祝い、語り、問うことは、沖縄(琉球)と日本(ヤマト)との植民地主義の歴史に斬りこむことも、また逆に正当化し再生産もし得る、政治的・文化的な営み、たくらみ、もしくは闘いともいえる。本書は去年「復帰50年」の節目で多くの企画や議論がなされる中、神奈川大学で行われた市民講座をもとに書き下ろされた5つの論考がまとめられている。どのようにこの本が出版に至ったのかは後田多敦によるまえがきを参照してほしい。

 後田多は「復帰」を「再併合」と捉え直す歴史認識をめぐる闘いについて、歴史文献に市民がアクセスできるように提示しながら議論している。そして「日本の中の沖縄」という言説が現在進行形で定着し、「新しい段階、あるいは次元」に入っていると、沖縄人そして「専門家」のポジショナリティーを批判的に追究しながら警鐘を鳴らす。崎浜靖は、沖縄のマチづくりがどのように「奪う植民地主義」から「与える植民地主義」へ変遷した歴史的文脈の中で空間構成されていったのか、場所の記憶をマッピングする。軍産複合体や地域振興策という日米による植民地主義システムは、屋嘉宗彦の琉球併合以降の沖縄経済の歩みを概観する論考でも明らかにされ、沖縄の経済的自立の可能性が模索されている。

 大嶺隆は日本政府の所管団体「沖縄協会」に内部の人間として関わった立場から、「復帰」やその後の沖縄政策に大きな影響力を持ったヤマトの政治家たちの巧妙な手段描写と、今では忘れられた、大田知事が提唱した「国際都市形成構想」のベクトル/戦略/夢の再評価をしている。そして、地元メディア側の立場として与那嶺一枝は「復帰」をどう取材し発信していくかの葛藤を共有しながら、ヘイト発言や台湾有事をめぐるメディアによる言説形成の危うさを指摘する。

 5人の講師の論考から共通して読み取れるのは、沖縄が単なる研究対象でなく、それぞれのポジショナリティーが、著者たちの生きざまと重なり合う覚悟を持ったものとして浮かび上がる点である。

 (小嶺千尋・沖縄キリスト教学院大准教授)


 しいただ・あつし 1962年生まれ、神奈川大教授。著書に「琉球救国運動」「救国と真世」など。