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<書評>『我が内なる沖縄、そして日本』 自分史超えた昭和・平成史


<書評>『我が内なる沖縄、そして日本』 自分史超えた昭和・平成史 『我が内なる沖縄、そして日本』大濱聡著 ボーダーインク・2750円
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 著者は、1948年生まれの「団塊の世代」。元NHKマンである。44年間の長きにわたって番組制作に携わった。前著「沖縄・国際通り物語~『奇跡』と呼ばれた一マイル~」(ゆい出版)は、話題を呼んだ。

 今回の書は、書き下ろしではない。人生の節目節目に、あらゆる媒体に書いてきた評論や新聞投書、随想、コラム、本の書評などをひとつにまとめ編集再構成した単行本である。よく書きつづったものである。6章に及ぶ内容展開は、ウチナーンチュの肝心(チムグクル)を忘れない論考にあふれている。単にある放送人の回顧、軌跡にとどまらない「昭和・平成史」を浮き彫りにした物語になっている。

 プロローグ「バガスマ石垣」を“船出”にして、第一章「『NHK』を歩く~報道・制作の現場から~」、第二章「個人的昭和・平成史~同人誌『多島海』から~」、第三章「我が愛しの国際通り~『沖縄・国際通り物語』の周辺~」、第四章「青春記~愚直に一直線~」、第五章「東京で沖縄を見つめていた頃~ふるさとは遠きにありて~」と興味深く展開していく。

 やはり圧巻は、第二章であろう。初出の同人誌『多島海』で読んではいたが、一つにまとめて提示されると1970年前後の沖縄返還交渉の内実、流れが鮮やかによみがえる。そして色あせない。著者は23歳の時、当時の総理大臣佐藤栄作宛てに手紙形式で朝日新聞に投書する。それを基軸に高校時代の演劇活動など絡ませながら直接的には面識のない佐藤栄作との「出合い」をドラマ仕立てにして、ぐいぐい読ませる。投書の指摘通り「やはり、密約はあった」と結ぶ。

 第二章には「作家たちとの出会いとその死」もあり、著名作家との交流秘話が披露され、この人しか書けない証言集にもなっている。同書は、関連文献をくまなく当たり、個人のドラマを越え、自分史の枠を超えた「政治史」「放送史」「作家論」「映画論」の側面を持っている。ぜひ一読を勧めたい。

 読了後に、なぜか「マイ・ウェイ」の曲が聴こえてきた。

 (松島弘明・元琉球新報記者)


 おおはま・そう 1948年石垣市生まれ、元NHKディレクター。著書に「沖縄・国際通り物語~『奇跡』と呼ばれた一マイル~」「関東甲信越小さな旅(4)~(7)巻」(共著)など。