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<書評>『同盟は家臣ではない―日本独自の安全保障について』 真の「主権者」へ覚醒促す


<書評>『同盟は家臣ではない―日本独自の安全保障について』 真の「主権者」へ覚醒促す 『同盟は家臣ではない―日本独自の安全保障について』孫崎享著 青灯社・1980円
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 「米軍が日本を守る」は幻想。米国の「核の傘」はない―。筆者は本書で、そう言い切る。

 加えてウクライナ戦争での米国の狙いは自ら直接戦場に出ることなく「ウクライナとロシアを戦わせること」。そして、同様に台湾有事は「日本・台湾に中国と武力紛争を行わせること」―。ここまで断言されると、戦争や有事騒動でだれが利しているのか知りたくもなろう。

 著者は、あの孫崎氏である。外交官として主要国で諜報活動を重ねた元外務省国際情報局長。しかも防衛大学校教授として、この国の安保・外交政策の中枢にいた人物である。

 論点や主張は、すべて部外秘や機密指定されていた外交文書、キーパーソンらの証言などで裏打ちされている。

 憲法違反の「自衛隊」の前身となる「警察予備隊」は国会での討議なしの「政令」で実現されたという。

 その自衛隊を専守防衛から敵基地攻撃能力を持つ「軍隊」へと名実ともに変貌させ、5兆円から8兆円近い「異次元の軍拡」を実現する「安保関連三文書」は改憲なしの「閣議決定」ごときで決定されている。

 尖閣問題は「主権は係争中だが管轄は日本」という曖昧外交で、尖閣有事の際「日米安保があっても米国は戦う義務を負っていない」と論証している。

 国民の多くが「有事にはアメリカが守ってくれる」と信じてきたが、本書が紐解く安保外交史で、そのことが「神話」に過ぎないことに気づかされる。

 日米同盟共依存で、「見捨てられる恐怖」から「自分自身で考える権利」を放棄し米国に追従する日本。だが、台湾有事に同盟国・米国に乗せられ、対中強硬策に巻き込まれる「最悪の事態」の危険性を、マクロン仏大統領は「米国の同盟国であることは米国の家臣になることではない」と喝破している。

 偽情報が飛び交う中で、安保外交戦略のプロが重要機密情報を惜しげもなく開示・解説し、国民に真の「主権者」への覚醒を促す。その意味では政府にとっては“危険”な啓蒙の書であろう。

 (前泊博盛・沖縄国際大学教授)


 まごさき・うける 1943年生まれ。外務省国際情報局長、駐イラン大使などを経て防衛大学校教授などを歴任。著書に「戦後史の正体」「平和を創る道の探求」など。